大きく開いた俺の足の間、
床の上にコンタがあぐらをかいている。
無音。

「こんなもんで･･･ええか」
コンタが独り言のように言って、握っていた鋏を広げたティッシュの上に置いた。
コンタの目の前に晒した股間、その真下に敷かれた新聞紙の上に、どれほどの毛が落ちているのか、興味はあったが覗き込むのが怖かった。
俺はコンタからも股間からも目を背けて、ベッドの上に散らかった文庫本を目で何度も辿っていた。
既読の本ばかりで書棚からひっぱりだしてきたばかりの本だった。
タイトルを読んで、内容を思いだそうとするがうまくいかない。
ただ無意味に断片的に、登場人物と、印象的なシーンと言葉が早回しのスライドショウのように脳裏を掠めるばかり。
ちゃぷん、と水音が響き、ほどなく温かいタオルが股間に押し当てられた。
「ん･･･」
「なんや･･･緊張してんの」
コンタが笑った。
「さ･･･やろか」


ひやり、とシェービングジェルがまず下腹深いところに落とされた。
コンタの指先がゆっくりとそれを塗り広げていく。
チンコの上、脇、タマの部分まで。
摩擦係数のひくいその感触に俺は思わず出そうになった声を殺した。
「お、れん、見てみー」
「見ぃひん」
「見ィって･･･ほらほら」
わざといやらしい手つきでジェルを塗りながら、コンタが笑った。
「勃ってきたで･･･？」
「うるさい、さっさとせぇ」
ローションに近い感覚で、こんな場所に触れられれば誰だってこうなる。
ジェルが短く刈り込まれた俺の陰毛に馴染んでいく。
「んー･･･すげー楽しい･･･」
コンタが抑えきれないらしい忍び笑いを漏らしながら右手のジェルをタオルで拭っている。
俺の陰毛はもうすぐなくなる。


「なぁ、れん、どんな気分？」
「うるさい」
「なんかさー、俺すげぇ昂奮すんやけど」
「勝手にしとけ」
「お前も、してるやん･･･ほらァ、もうがちがちやで？」
うるさい、うるさい。
どんなに叫んでも言い訳はできない。
本当は。
恋人の前で、足を開きチンコもアナルも晒して死ぬほど恥ずかしい思いをして、でも俺は同時に知ってもいるのだ。
俺の中にはこの羞恥に快感を感じる存在があることを。
カラダは何より正直で雄弁だ。
「動くなよ･･･？」
体が知らず、硬直した。
目を背けたまま、羽織ったシャツの感触だとか指先に触れたシーツの暖かさだとかそんなものに意識をもっていこうと努力した。
しかし圧倒的な違和感の前にそんな努力は灰燼に帰す。
皮膚が受容し電気パルスが体を疾走して、一気に剃り落とされる感覚を明確に伝える。
鳥肌がたつような恐怖感とそれを裏切るえも言われぬ快感に俺は翻弄されていた。
コンタの手の動き一つで俺の薄い皮膚は裂かれ血を噴き出しもするだろう。
そんなことに対する
身震いするような感覚。
恐怖と、期待。
勃起したチンコをく、と押さえながら
ぞり、ぞり、と勢いよく躊躇なく器用に剃り落とされていく。
コンタの左手が、ふいに俺の内股に触れた。
「な、んやねん･･･ｯ」
「震えてるで･･･怖い？」
「アホか、んなわけねー」
「大丈夫、絶対傷つけんから」
ちらりと横目で見たコンタが、真摯な目で俺を見つめていた。

何度も吐息と喘ぎを混ぜて吐きだしながら俺はもう何も偽れていない。
丁寧なコンタの作業で俺の陰毛はタマの部分まできれいになくなった。
３０分はかかったろうか。
四つんばいの格好で、俺はコンタに唇を貪られていた。
シャツははおったまま、むき出しになった下半身、会陰からアナルにかけて塗られたのは低刺激除毛クリーム、複雑で敏感なその部分には、コンタも刃を当てるのをためらったためだ。
その部分が妙に熱ぼったく感じるのは気のせいか。
コンタのキスはいつにも増して濃厚を極めた。
唇を軽く噛んで
舌先を弄び
唾液を交換し
歯列をなぞって
優しく激しいコンタのキスは繰り返される。
見なくてもわかる、俺のチンコは丸裸になって、体の中心で硬く屹立している。
そして敏感な先端から透明な汁をにじませているのだ。
「コンタ･･･しゃぶらせろ」
「はは、なに？剃られて昂奮したって認める？」
「うるさい･･･さっさとチンコ出せ」
「生意気な口やなぁ･･･変態のくせに」

体の奥でずくん、と何かが疼いた。
そう、俺は変態なのだ。
恋人の前に股間を晒し
陰毛を剃り落とされながら勃起させ
あまつさえこうして
膝立ちになったコンタのチンコで乱暴に喉の奥までふさがれながら、どうしようもなく昂奮しているのだから。
自分でチンコを扱きながら
生理的な涙でにじむ視界にすら覚える快感。
コンタに髪を掴まれて口の中を犯されながら、高まる被虐心。

「ひさびさやなぁ･･･お前がこんな顔してんの、見るの･･･」
コンタが口腔を犯す快感に息を乱しながら言った。
目だけでコンタを見あげると、サディスティックな表情のコンタが薄く笑っていた。
次の瞬間、コンタのチンコが俺の喉を激しくつきあげ
俺は軽い酸欠に眩暈し、射精した。
頬をシーツに沈ませ恍惚に息を乱しながら、背後にまわったコンタがクリームを丁寧にふき取っていく感触がまた何かに火を点したのを感じていた。
一気に燃え広がる劫火、俺の理性を焼き尽くす烈火。
射精したばかりなのに俺のチンコは勃起しはじめている。
俺のからだのすべてを知る恋人がそれを見逃すわけはない。
濡れたタオルで仕上げ拭きをしながら背中に降らすキスの雨。
肩甲骨に繰り返される甘い痛みに背中がわななくのを感じる。
もう、求めるものは一つだ。
辿りつきたいところは一つだ。
意識して背中を弓なりに反らし、尻を突き出す格好を更に強調し、コンタの欲情を煽った。
コンタが背中から俺を抱きしめ、硬く勃起したチンコを尻の間に押し付けながら耳元に言った。
「れん･･･おまえさ･･･なんでそんなエロいの･･･」
「知るか･･･エロいの、好きな、くせに」
耳元でコンタがくくく、と笑った。
「うん、好きや･･･エロいおまえ、好き･･･日頃のギャップに昂奮する」
「なんやそれ」
「俺だけの特権やから教えん」
またコンタが笑った。


加速し増幅する津波に似ている、といつも思う。
はじめは後ろから深く内臓を抉られる、その律動がはじまりの波だ。
強く叩きつけるように最奥に突き立てられる、脳の一部と体はもう朦朧と輪郭をなくしていこうとしているのに、どこかで冴えきった感覚が俺の中に芽吹く。
俺の腰骨を掴むコンタの驚異的な握力とか、食い込む爪の感覚だとか。
尻たぶに触れるコンタの毛の感触、俺の声を殺そうと後ろから俺の口を抑えるコンタの体温、少し塩味のあるその掌。
仰向けに体を向きを変えられて乱暴に足を開かれる。
コンタの手が俺の膝裏にかけられさらに。
「うお･･･すげぇ、壮観･･･れん、見てみぃ･･･めちゃくちゃエロい」
見なくてもイメージできた。
隠すものの何もなくなった股間、勃起して我慢汁を垂らすチンコ、そしてコンタのチンコの大きさ分だけ広がったいやらしい穴。
Ｖの形に開いた俺の足の向こうにコンタの欲情した顔があった。
硬度をおとさないチンコの先をアナルに擦りつけながら笑う。
「･･･欲しい？」
「ふざけんな、早よ･･･」
「チンコ入れて、って言え」
たまらない。
くそぅ。
体の奥の脈動がわかる。
これは疼きだ。
コンタとのセックスで確実に喚起される絶対不可侵な快感を覚えきった俺の体が。
俺のプライドを簡単にねじふせる。
「コンタ･･･早よ、チンコ･･･突っ込んで･･･ッ」

コンタが満足げに笑った。


コンタの本能的な律動が俺の体を揺さぶっている。
ずるり、とシーツの上をスライドする体、
その波が俺の快感を更に呼び起こし、快感を増幅する。
突き上げられるたびに頭の天辺にむかって走る電撃のような快感が
俺のからだを開放していく。
「れん、すげ、エロい顔･･･ッ･･･」
タオルで猿轡をかまされて行き場を失った声が自分の体の中に吸い込まれて更に波と振動を増幅させていた。
「毛、なくなって、ココも、すげぇ、いやらしい･･･ッ」
馴染んで広がったアナルの粘膜がコンタのチンコにひきずりだされ、いやらしい音を立て続けている。
空気、音、匂い、振動。
津波。
ぎりぎりと音がするほどに張られていく快感の弦。
涎と声を吸い込むタオル、荒れる呼吸。
「ほら、イけや・・・ぁ・・・ッ」
コンタが遠慮なく乱暴につきあげた瞬間
カラダの深いところで
なにかが
はじけて
頭が
真っ白に
なって
張り詰めた
何かが
ふつり、と切れて



俺の意識は快楽の津波に飲み込まれた。



暗転。




気がつくとコンタの腕の中だった。
コンタは静かに寝息を立てている。
ゆっくりと自分の体をなぞって、股間に手をのばす。
これまで隠されつづけた皮膚に指先が触れた。
半勃ちのチンコを迂回してゆっくりなぞっていく、陰嚢、会陰、そしてアナル。
すこし汗ばんで、でもするりとした手触り。
子供のころと同じ皮膚、でも発達しすぎた性器。
そのアンバランスさに鳥肌がたつような快感を覚えたのは俺だけではないはずだった。
俺のなにもない股間を見下ろし、アナルを責めたてながらコンタのチンコはいつもより硬かったのだから。

俺は自分の股間から手をひいて、コンタの胸に額を押し当てた。

薄い闇。
時計は午前４時。


耳が痛くなるような静寂を乱して、静かに響くなにか。
体の奥、体の芯で
いまだに波紋を広げ続ける

快楽の余韻。




その感覚は


思うさまかきならした
開放弦に似ていた。