コンタも俺も、メール不精の電話不精。
１日にメールが３往復もすれば多いほうで、電話も数日に１回。
俺のバイトのシフトは報告してある。
今日バイトなん知ってるはずやのになぁ・・・
不思議に思ってメールを確認した。


『うー・・・アカン。』

たったこれだけ。
なんやねん、どないしてん！

俺は急いで着替えを済ませ外に出てコンタに電話をかけた。
外はまだ真っ暗、マフラーの中の顔を半分埋めながらコールを数える。
１回。
２回。
時間は午前４時すぎ。
寝てるかな。
３回。

『おう・・おつかれ』
珍しく不機嫌そうなコンタの声。
バイトだったことは認識してるらしい。寝起きの声ではない。
「どないしたん・・・なにがアカンねん」
『んー・・・いや別になんもないねん・・・』
「そうなん・・・？」
『・・・うそ。ちょっと声聞きたい病になっただけ。びびった？ごめんごめん。』


足先が痛くなる寒さ。
その場で駆け足しながら俺は答えに窮した。
コンタのそんな言葉をきくのは初めてだった。
でも。
こんな寒さ。
こんな静寂。
剛毅な男の心に弱気な虫が逃げ込んでも仕方がない夜。

「コンタ・・・？」
『今店の前？』
「そぉそ・・・今から帰るとこ」
『そっか。気つけてな』
「それでええの？」
『・・・』
「コンタ、会いたいから今からでてこいや。Ｎ公園な。とばすから１５分ぐらいでつくと思うし」
『え・・』
「どうせ起きてるんやろ？バードケージの前な。かなり寒いから着込んでこいよ。ほな」

コンタの返事を待たずに俺は電話を切った。
ワガママは俺の専門やからさ。
俺のワガママにしとこうぜ。

早朝のがらがらの新御堂をありえない速度で飛ばした。
捕まったら免取では確実なスピード。
Ｎ公園についたのは１８分後だった。



バードケージの前でコンタは白い息を吐きながら立っていた。
「おぅ！遅なってスマン！待ったか？」
「いや・・れん、疲れてない？」
「あはは、もぅ慣れとるって。ここから飲みに行くときもあんねんから」
「すごいな」
コンタは街頭の明かりの下で困ったように小さく笑った。
笑ったその唇に俺はキスをした。
冷たい唇。
熱い舌。
そういえばセックスにつながらないキスって久しぶり。
でも本当に俺、コンタのことが好きなんや。
こんなに心が満たされる。
頬を切るような寒さの中で、こんなにもあたたかいものが喉元までこみあげてくる。

唇を離すとコンタが
「今日はごめんな、ホンマ・・・」
と言った。
俺は、はぁ、と呆れたような溜息をこれみよがしにしてみせてから、コンタのまわりを靴先で土をけりあげながらゆっくりと回りはじめた。
「お前がバイトやてわかってんのに」
「そんなことに気つかうなって」
そして次の半周目、コンタの真後ろで足を止めた。
「でも・・・」
「こんな時間にお前呼び出したんは俺の方やん？ワガママは俺の得意分野や」

コンタのダウンコートの背中。
広く優しい背中に俺は後ろから抱きついた。
すこし俺より背の高いコンタを肩から抱くように。
コンタの冷たい耳が唇に当たった。
「でも時々はさ、コンタもワガママゆぅて・・・？」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

会いたい気持ちをワガママというなら、の話。




コンタが俺の手を包むように握った。











え？すぐに帰りましたヨ。
さすがにあの寒い中で何もできませんて。
夏なら確実にサカってましたけどね。