ゼミの男連中総勢８名はゼミ友達♀の何名かに呼び出しをくらっていた。
１４日、午前１１時。
大学前のサ店「サンセット・イン」（名前はダサイが老舗。）
オレがついたのは１１時６分。
鶴橋発の近鉄国分行普通電車を１本乗り過ごしたのだ。

ドアを開けたとたん甲高い声。
「もらう分際で遅れてくるか」
男連中から『歩く放射能』と陰でこっそり悪態をつかれているサナダの声だ。
さして可愛くも賢くもないのに当たりかまわず毒を吐きまくるこの女、でも俺は嫌いじゃない。
「頼んだわけちゃうやろ。だいたい５分ぐらいでキャアキャアゆぅなや。心の狭い女やのお」
軽く毒を返してから席についてレモンティを頼んだ。
コンタはもう来ていた。
４人がけテーブル３つに別れた真ん中のテーブルのソファ側にかけていて、目があうとにっと笑った。
俺たちは一人当たり５個のチョコの包みをもらった。
性格美人のカエちゃんは面倒見がよくて気がきく。
その日も男の人数分のでかい紙袋を用意してくれていた。
でもね。
カエちゃん。
少なくとも俺はさ。
エルモの柄の紙袋を提げて梅田とか歩きたくないよ。
ちなみに
コンタの紙袋は機関車トーマスだった。
どっちもどっちか。

卒論の話、他ゼミでの椿事、旅行の話。
１時間ほどそんな話題で盛り上がって、１２時過ぎには解散した。
雨が降り出していた。


変な紙袋をぶらさげて、コンタと帰りにネカフェに寄った。
戦利品のチョコを調べた所
サナダは「ゴディバ」のトリュフアソートメント。
ミカサは「神戸元町一番館」のポム・ダムールと、ぬいぐるみ。（本家ブログイラスト参照）
カエちゃんは「グランプラス」の生チョコ。
マチは「モロゾフ」のルベラージュ。
シナノはアポロ/チョコボール/たけのこの里/キットカット/ダースの詰め合わせ（笑）



ということが判明。
なんでこんな面倒なことをするかってーと、だってこいつら
バレンタインのチョコはホワイトデーへの先行投資ぐらいにしか思ってないからさ。
ちゃんと値段調べとかないとね。
ところがここで問題発生。
俺とコンタと、明らかにスペックの違うチョコが２個。
俺がサナダから貰ったゴディバは２２００円。
コンタが貰ったのは１２００円。
カエちゃん発、グランプラスの生チョコは俺のが１０００円、コンタのトリュフが２５２０円。

「実はさー、カエちゃんから告られてなぁ・・・」
とコンタ。
あ、なるほど。
だからこんな値段なんやぁ・・・


って。
オイ。

いつのまに。

コンタは１０時半にカエちゃんに呼びだされたらしい。
コンタは淡々と話をつづけた。

カエちゃんはずっとコンタが好きだったらしいこと。
実はコンタもなんとなく気づいてたこと。
コンタに新しい彼女の気配がないので思い切って告白したらしいこと。
コンタも彼女の内面から溢れる何かが魅力的だと思っていたこと。
違うやろ。
違うねん。
コンタ俺はそんなことが聞きたいんちゃう。

「あはは、なんちゅう顔してんねん」

コンタが笑った。
「ちゃんとその場で断ったで。つきおうとる奴おる、ゆうて。」
「ふうん」
「誰やて聞くから、れんやてゆうといた」



・・・・・




えぇぇぇぇぇぇぇええ！


「・・・・まじで？」
「アカンかった？」
「いや・・・アカンことはない・・・・けど・・・」
「気ィきかせて『みんなには内緒にしとくわ』って言われたけどな」
コンタは楽しげに笑って、サナダのチョコも気になるよなぁ、と言った。





明けて１５日。昨日。






青天の霹靂。
朝からサナダにメールで告られた。



≪おっす、れん。昨日のチョコ、なにげに本命やってんけど。≫


いつもの調子で素直な言葉を選べないサナダ。
嫌いじゃない。
俺を見てるみたいで。



〝ほんまかぁ。ありがとな。〟

まずそう返した。レスがこないのを確認して５分後続きを送った。

〝でもゴメンナ、俺付き合ってる奴おるねん。〟

≪へぇぇ。そうなんや。私が暇つぶしのお相手したろ思たのに≫

返事はすぐだった。
昔の俺がある酒の席で、恋愛は暇つぶしやって言ったことをサナダは覚えてた。

〝すまんな。〟

≪ウザ。なんで謝るん、イミフ。別にええよ。ちなみにつきあってどれぐらいよ≫

〝半年ちょい〟

≪そりゃまた存じ上げませんで。あんたにしたら長いやん。私が知ってる子？≫

〝さあな〟

（なんや、ケチ。まぁ暇つぶしの相手に困ったらうちのとこ連絡してきてよ。≫

〝相手に困ることはないと思うけどな〟

≪いちいち腹立つやっちゃな≫

〝そんなもんお互いさまや〟

≪まぁエエワ。チョコ心して食べや≫

〝ああ、毒入りゴディバな〟

≪そうそう、毒入り。ってアホか。っつかむしろ死ね？（笑）ほなね。のんびり二度寝してください≫




コンタは暇つぶしの相手じゃない。
恋愛なんて、と言ってた頃の俺でもない。

でもコンタみたいに胸張って恋人の名前を叫べる俺でもない。

いつかそんな日がくるのか？
俺の恋人はコンタです、と何も恐れず紹介できる日が。

昨日はそういうわけで１日何をする気にもなれず、無為に過ごした。
受け止められない思いをぶつけられるのは、やっぱりしんどい。




昼すぎに食べた毒入りチョコは甘くて苦かった。