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自分の中の両極を、自分の中のけだものを。 制御し飼い馴らす方法を探す旅。
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空白の所有権【res:】
いつもなら朝からずっぷり発情モードのはずの土曜の朝。
金曜の夜にコンタから電話があった。
どうしても断れないバイトが入った、という。

別にえぇよ。仕事やし。
れん、ちょっと怒ってる?
なんで怒るねん。


引越屋のバイトである。
夕方には終わるからソッコー行くワ、その気持ちはありがたいけどね。
この前は昼まで、っつってたのに来たの夕方だったやんな?
ええ、期待はしていませんとも。


というわけで土曜午前中はPC触ったりしていたが、午後からは読書、と引き続き目を酷使する作業に従事することに決めた。
目にゴミが入って今日は早々にコンタクトレンズを外したし。
眼鏡もつくりかえたところで調子がいいし。

今回とりかかったのは「後巷説百物語」、ご存知、京極夏彦著。
ありえなくね?
文庫で厚みが五センチぐらいある。
普通なら読む気も失せる。
でも彼の小説は読み始めると不思議と結構早い。
若かりし頃(笑)は京極堂の何ページにも渡る長口上にわくわくしたもんだなぁ。10年ぐらい前か。

まぁとりあえず順調に読み進めて時間は午後5時。
俺の携帯は沈黙している。
今日はコンタさん来えへんの?と聞きに来たかなこに「予定は未定」とだけ答えて俺は本を閉じた。


俺はデスクの上の冷めたアールグレイを飲み干してタバコに火をつけた。
なにもない。
ああ、珍しぃなぁ。
俺の心がこれだけニュートラルになってるのって。
読書を中断すると時々こういう状態になる。
集中力がすっぱりと切られて行き場をなくす。
情報を処理していたシナプスが緊急停止する。
いわば思考の強制終了。
こういう時には何もしないか、寝るか、
それともう1つ。
部屋の隅にひっそりと佇む赤いチェロケース。


チューニングはいつも適当。
本当はチューナーでヘルツ単位まであわせたほうがいいんだろうけど。
大体耳であわせて問題なくレッスンを終われるからおそらくあってるんやろう。
楽譜を出すのも面倒。
専用に買ったスツールに座って
チェロを抱え込んで、
弓のテンションとピンを調節して。

静かに、二度呼吸。


開放弦に弓を滑らせる。

深く沈むG音。
続いてD、B、A・・・・

無伴奏チェロ組曲、第一番、プレリュード。
暗譜できているのは第一番だけ。
昏いところから光へ手を伸ばすイメージ、滑らかなアルペジオ。
なにもない心が一気に音楽という光で満ちる。
天から差す光を手の中に掴む。
何度泥にまみれても、光はそこにある。
敬虔で放埓な音のスケール。
伸びやかで、自由で、そして整然とした音の流れ。
18世紀に生まれた男の伸ばす、救いの光。

おまえは生きていていい。
おまえは愛されていい。
おまえは望んでいい。
おまえは慈しまれていい。
おまえは必要とされている。
おまえのすべては、誰かの望むもの。



力強い肯定の重音の響きがチェロ全体にそして俺の骨にも共鳴した。


ニュートラルな俺の思考が音楽に満ちる。


「へぇぇ・・・初めて聞いたワ」
耳元に囁く声。


何時の間にやってきていたのか、俺の真後ろにコンタは立っていた。
俺が振り向こうとするのを制してコンタは、身を屈めて俺の耳元に囁いた。
「もうちょっと弾いてぇや」

コンタの声もまた音楽。

第一番第4曲。
サラバンド。

深い重音から祈るように始まる旋律。
水の中に沈んだ自分をゆっくり掬いあげるように重ねていく。
コンタの冷たい唇が後ろから俺のピアスを掠めるように耳に触れる。
気持ちえぇなぁ・・・コンタが呟いて、俺の背中に体を押し付けた。
ぬくもり。
こころなしか俺の弓から溢れる音にもその温かさが伝わるような。
優しくいたわるような重音にコンタがため息をついた。
「おまえの体から、音楽が流れてくるみたいや・・・・」
チェロに俺の骨にそしてコンタの体に伝わる音楽。
あの敬虔な男がひたすら神への祈りのように積み上げた繊細な旋律が、今俺たちをつなげている。
そう感じて俺は震えた。
リピートを繰り返して何度もなぞられる音の重なり、豊かに語られるD音、そしてG音・・・
体とこころに絶妙なバランスで満ちてくる、愛情と音楽。官能と高潔。
俺の項に唇を押し当てるコンタの息遣い。
こころ、満つ。



沈黙して横たわったチェロを横目に、コンタに俺の腰骨を掴まれ、後ろから突き上げられる。
まだ、俺の中には旋律。
痺れた脳髄に螺旋の蛇のように絡みつく音楽。
もっと深い音を。
高みより落ちてくるものを受け止める、深い沈下を。
音楽に占拠されそうな俺の心の一部を繋ぎとめる、深い律動を。
「コンタ、もっとや・・・・」
「あかん、これ以上やったら・・・・」
コンタが俺の背中にのしかかるようにして体を抱いて背中から囁いた。
おまえが壊れる・・・・
大丈夫、俺は壊れん。
淫らな行為の最中でさえ俺の中には神に捧げる音楽、俺を救い上げる音楽がなり響く。
痛みや苦痛など怖くない。
そんなものに膝は折れない。
「アカン、もっと、して」
コンタが体を起こして俺をめちゃくちゃに突いた。
なんでそんなにエロいねん。
心の中に音楽が響く。
強く突きすぎて俺の尻の骨にコンタの腰骨がぶつかって体の中に響く。
ローションと腸液と我慢汁とがないまぜになった、湿った摩擦音が鼓膜に響く。
いろんなものが俺の中でひとつに収束していく。
コンタが俺のチンコを扱きあげた瞬間、
俺の中に溢れそうになっていた響きの快楽が一瞬にして、コンタの律動が生み出す痛いぐらいの悦楽に吸収された。
「すげ・・・・っ」
俺が、そしてコンタが射精した。





コンタが怒ったようにそっぽをむいてタバコを吸っている。
コンタのこんな顔は珍しい。
「・・・・何すねてんねん」
「別に・・・・」
「別に、やないやろ・・・・こっち見ぃや」
俺は強引にコンタの前に移動して正面からコンタを見つめた。
俺にはコンタに不機嫌になられる筋合いはない。
遅れてやってきて俺の練習を中断させたのはコンタの方だ。
「言いたいことあるんやったら言えや」
「なんかムカついただけ」
「なんでムカつくねん」
話を聞くと、
チェロを弾いていた俺に欲情した自分自身に、そして欲情させた俺に、
その余韻をひきずったように恍惚とした俺に、そしてその俺に更に欲情した自分に、

ムカついたらしい。


「アホか」
俺が呆れて言うとコンタはまぁ、そぅやねんけど、と付け足してタバコを揉み消した。
「やっぱ自分以外のモンがおまえの中にあるのが体感できてまぅとキツい」
「もん・・・って・・・・」
「チェロのせいかなんか知らんけどおまえすげぇエロくて・・・・俺そんなにすぐセックスする気なかったのに止められんくなってもて・・・俺以外のもんでエロくなって欲しくないのにそういうお前にめっちゃ興奮したり・・・ああもぉわからんけどムカつく!」
「アホか」
「アホアホゆぅな」
「だってアホやもん。」

その証拠に俺の中にもはや音楽はない。
あの旋律を飲み込んだのは誰?
悦楽の渦に沈めたのは何?

せっかくできた貴重なニュートラルを、肉欲で塗りつぶしたのはおまえやぞ、コンタ。
「ほな、なんべんでも確認したらええやん?俺の中に今、何があるんか・・・」
俺はコンタを抱き寄せてキスをした。
濃いタバコのフレーバーと、そして甘い唾液の味。
コンタの舌が貪欲に俺の口腔を貪る。
俺をここまで完璧に、理性と感性すらも黙らせて官能一色に塗りかえてしまえるのは。


「な、コンタ、わかるやろ・・・・?」


コンタしかない。




チェロが恨みがましげに沈黙する隣で俺たちは更に二度、お互いの深部まで潜りあった。

ようやくコンタは納得した様子。










今回は俺の中に時々できる不可侵域と
結構嫉妬深い恋人のお話でした。


音楽に嫉妬されても。

・・・なぁ?(笑)

コメント
この記事へのコメント
■アコさん■そっかぁ。
俺の度量が狭いっちゅうことですな・・・w
自分のココロ狭いと豪語しあってる二人だからなぁ・・・
まぁ、そのうち余裕も出てくるでしょう。
新しい生活も始まって、ヤキモチなんか焼いてる暇ないでしょうから・・・w

2006/03/15(水) 10:47:37 | URL | 恋児 #-[ 編集]
ニュートラルか…。
いい表現だ。俺もそんなときが結構あって(しかも俺の場合突然くる感じ)、そんなときは嫁は俺に近づけなくてすっげぇ困ってる。俺が言うわけでもないのになんとなく感じるらしくてね。
今までは「なんか『無』な感じ」とか「真っ白」とかって表現使ってたけど、今度からは「ニュートラル」にしようっと。

音楽も、どSレンジも、ニュートラルも、やさぐれレンジも、ピアスも、バイも、全部ひっくるめてレンジだし、俺は全部ひっくるめてレンジが好きだが、それをコンタに求めるのはワガママかもな。←他人へのレスへのコメントですまん。

それを思うかどうかはコンタの自由だし、そう思えない、ヤキモチ焼きのコンタの全てを受け止められるだけの愛情をレンジに持って欲しいと思う今日この頃…。
2006/03/12(日) 23:06:13 | URL | アコギスト #-[ 編集]
■ゆうこ■人じゃないものに嫉妬した経験・・・んー、思い当たらないなぁ・・・あ、時々コンタのバイトに嫉妬するかな(笑)あれは嫉妬じゃないんかな。
変なシチュエーションに憧れるなぁ・・・(笑)これって結構スタンダードなの?あ、そういう映画あったよね?ピアノレッスンだったかな?そういう映画じゃなかったったけ・・・(記憶が定かでない。)
俺にとって音楽は、確かにセックスと同じぐらい溺れてしまうものの一つです。

■はるさん■はるさん、はじめまして。浮上・コメントどうもありがとうございます♪
・・・って早速潜らないで下さいよw
すみません、威圧的な文章で・・・w他意はまったくありませんので(どんな他意ダヨ)是非またコメント下さい。コメントがしずらかったらBBSでも本家でも結構ですので。
まぁお姿拝見しなければまたチェロ入りエロの餌で釣りあげるしかないですね・・w
今後ともどうかよしなに。
2006/03/11(土) 14:55:41 | URL | 管理人:恋児 #-[ 編集]
はじめまして
はじめまして。
3月に入ってお邪魔するようになりましたが、レンジさんの文章に圧倒されてしまして、コメントを投稿する気になれず今日までROMでした。勝手に恐れ入ってるわけですw
でも「エロ」に「チェロ」大好物が二つも!!嬉しくて嬉しくて・・・足跡残してしまいました。また「チェロ」の話も書いてくださいませ。喜んで食いつきますw
それでは潜ります。ブクブクブク
2006/03/09(木) 23:20:13 | URL | はる #SiE5PZCA[ 編集]
楽器の演奏からェチな方向に話が展開するなんて・・・ステキw
私が学生時代に憧れてたシチュエーションw
楽器を演奏してる最中に耳元で声なんてかけられたら普通演奏とまっちゃうよw(>_<)私の場合、管楽器を演奏していたので息が・・・。←かなり妄想の世界に入っちゃってますw

でも人じゃない物とかに嫉妬しちゃうコンタさんの気持ちわかる気がします。(^^ゞ音楽じゃなくても、彼氏がゲームや漫画とかに集中してて嫉妬してる女の子達っていっぱいいるよね・・・きっと。(^^ゞ

レンジさんも人じゃないものに嫉妬した経験ありますか??
2006/03/09(木) 10:53:06 | URL | ゆうこ #KPE40tuU[ 編集]
■きき■なんかねー、俺が「陶酔」してるっぽくてイヤやったんやて(笑)コンタは自称・やきもちやきらしいから大変です・・・俺の勝手で自己チューで傲慢な希望を言わせると
「音楽やってる俺ごと愛せ」
ハイ。アホですね。

■沙羅ねぇさん■俺のせいにしていいですから、その代わり生意気なエロ青二才の俺のこと思い出してくださいよぅ?(笑)妄想の中でなら何しても結構ですし(笑)
ニュートラルもかぶりましたか!バイオリズムが似てるんですかね?
ほら、割合は違うとはいえ、S・Mのスイッチヒッターぶりも近いものを感じて仕方がないし。
自分で自分を俯瞰・・・なんか分かります。でも俺はその俯瞰してる自分すら認識できなくなります・・・修行が足りんなぁ。沙羅ねぇさんそろそろ悟りを開いてしまいそうな勢いですもん。
エロ道の悟り(笑)そうなったら一番弟子にしてくださいね。

■どんこ■のろけてるつもりはなかったんだよぅ。結果的にこうなってしまう最近の日記・・・ちょっと軌道修正せんとなぁ・・・
幸せの匂い・・・臭くない?栗の花っぽかったりしてない?

■まり■のろけてるつもりは・・・(言い訳はいいですね。)
束縛が嫌いな俺様は今回ちょっと苦笑ものやったよ、正直。
ああいう時、音楽は俺の一部だからさ。嫉妬の対象にしてほしくない、っていうのが本音。

■ゆか■なんか頭ぼーっとするよね、特に一気に読んでしまうと。自分の部屋やのにそうじゃない、みたいな。そういう感覚も結構好きで、だから読書はやめられない・・・映画じゃなかなか味わえないよね。あの余韻。
寝起き・・・ニュートラル、っていうか思いっきり「スタンバイ」やん・・・w

2006/03/08(水) 23:14:33 | URL | 管理人:恋児 #0iyVDi8M[ 編集]
読書って本の世界に入り込んでしまうから、
読み終わった後は、現実との境を
いったりきたり。
あの感覚が味わえるのは
そのときだけですね。

あと私がニュートラルな時は寝起きくらい(笑)
寝起きかなり悪いです。
2006/03/08(水) 19:36:48 | URL | ゆか #-[ 編集]
すごいのろけてる。。。笑

ラブラブしやがってぇ(▼ロ▼〆)o
うらやましいなぁ。。。!!笑

音楽に嫉妬かぁ~可愛いなぁ。
てか、嫉妬されるのもうれしいくせにぃ><笑
2006/03/08(水) 18:01:23 | URL | まり☆ #-[ 編集]
( ェ)
のろけとる・・・・・

(´∀`)(∀` )(` )( )( `)( `д)(`д´)ゴルァァァァァ
幸せの匂いがここまでしてくるやんけー!!
2006/03/08(水) 09:18:24 | URL | どんこ #-[ 編集]
あぁぁ、何て偶然なの。
ちょうど「プレリュード」聴いてたから、今日の記事読みながら鳥肌立ったよ。
今度からこの曲聴いて濡れたら、レンジくんのせいだから☆

「ニュートラル」っていうのもねぇ(ため息)
私がこのところ特に意識していることなのよね。
ちょっと心がオーバーフローしかけた時に、深く呼吸をして意識を集中させる。
いや、違うな。
集中じゃなくて・・・「無」にするというか。
意識下の無。心がこの後どっちに転ぶか、自分で自分を俯瞰するポジション。
アタシはそういう時「ニュートラル」って言葉が思い浮かぶの。
ちょっとアンバランスになった心の平衡を保つ、アタシの術。

え?アタシでもオーバーフローするときがあるのかって?
あるんです。たまには(ほっといて)
2006/03/07(火) 18:54:52 | URL | 沙羅 #eHP7HEy2[ 編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2006/03/07(火) 11:28:04 | | #[ 編集]
音楽に、チェロに嫉妬するコンタくん。
可笑しくって、でもすごくリアル。
なにものも二人の間に介在することを許したくない、どんな快楽より欲しいのはれんじくんの全て。
こころに体に一滴だって自分以外のものを存在させたくない。
あぁ、なんて貪欲なの?コンタくん・・・ww
ま、納得するまで貪りあって下さい。(笑
ごちそうさまでした<(_ _)>・・・・w
2006/03/07(火) 11:24:27 | URL | KIKI #A9cyFz3c[ 編集]
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