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自分の中の両極を、自分の中のけだものを。 制御し飼い馴らす方法を探す旅。
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焼き鳥屋にて【res:】
火曜日。
朝からちょっと憂鬱だった。
高校時代のさして仲良くもなかったクラスメート「水田」と飲む約束があった。(詳しい顛末は『棘の世界の住人たち』に記載済)
別に何が、というわけでもないが。
ただなんとなく気が重い。
退社してから待ち合わせの店までの道中、無理矢理テンションをあげてみる。
あぁぁぁ半クラみたいな音が自分の中でする気が。
エンジンに負担をかけたまま、さぁ見切り発車の坂道発進。(イミフ)





俺は本当に水田のことを覚えていなかった。
興味ないものに対する自分の記憶力の不適用につくづく驚いた。
顔を見れば思いだすと思ってたんだが。
待ち合わせをした馴染みの焼鳥屋の引き戸をあけて店内を見回しても水田を発見できない。
まだ来てない可能性もあったが、実は俺は15分ほど遅刻している。
バイトの男の子がお一人さん?とたずね、俺がいや、ツレが着てるはずなんやけど、と答えると、
「おい」
唐突に声をかけられた。
俺の目の前で背を向けて座っていた作業服を着た男が振り返っていた。
振り向いて俺に声をかけた顔に見覚えがある・・・ような気がする・・・(笑)
「先飲んどるぞ、○○・・・」
「水田・・・・?」
ああ、おまえが水田か。



全然共通項のない高校時代の話には触れず、俺にしてはめずらしく饒舌に水田の近況を聞いた。
はじめてメールをよこしたときのハイテンションぶりが嘘のように覇気がない水田から、仕事の話、子供の話と当たり障りのない情報を聞き出すうち、アルコールも手伝ってか水田の舌も滑らかになった。
嫁さんが最近パートに行きだした話。
子供の保育所代が高い話。
勤める木材会社での将来性の話。
マンションの頭金を溜めたい話。
嫁さんの実家が嫌いだという話。
4歳の長男と最近キャッチボールをはじめた話・・・
酒も杯を重ねたころ、高校時代のクラスメートの消息を水田が振ってきた。
聞き覚えはあるが顔なんて出てくるわけない奴らの消息になぜか水田は詳しい。
水田はそういえばクラス委員もよくやってた。
へぇ、そうなん、と適当な相槌でなんとか深いつっこみを避ける。
「笹尾と仲良かったよな、あいつ何してんの」
「ああ、去年タイにとばされたワ・・・時々メール来るけど」
「そーなん?あいつ結構口先上手やったからナニゲに出世できそうやったのに」
「あいつはホンマに『口先だけ』やからな・・・すぐに本性見えるやろ」
「うっわー、相変わらず毒吐きやなー」
「相変わらずて」
水田があはは、と笑った。
「でも、おまえ変わったよなー」

おまえって、近寄りがたいっつーかさ。
水田が話しだした。
仲良くなりたいんやけど、拒絶されるのが怖いっつーか。
涼しい顔して、女関係派手だし。
つるまへんかったやん、誰とも。
せやから笹尾ってみんなから羨ましがられてたんやで。
笹尾だけやったもん、おまえと普通に話せてたの・・・


へぇ。
俺ってそんなに排他的だったんだ(他人事)
というかさ。
面倒やったんよな。アクション起こすのが。
友達に関しては受身のくせに選り好み激しいし。
今だってそのスタンスは変わってない。
でも、まあさ。
社会人だし、そればっかりじゃやってけない。



「だからさー、なんかおまえがあのサイトに登録してるんが意外でな。ダメモト、期待半分でメールしてん」
「ふぅん?」
「返事こえへんと思ってたから、返事来たときは嬉しかったなぁ」
「あはは・・・・」
そんなに気にしてもらって、まぁありがたいんだけどさ。
よっぽど日常生活に刺激が足りないんだなぁ・・・(笑)
さっき聞いた家庭の話だって、上っ面だけならやんちゃ盛りの子供と口うるさいがしっかりものの嫁さんに囲まれて幸せそうにとれる。
仕事だって順調そうだし、事実、こいつも「幸せだ」と言った。
そのくせちっとも幸せそうじゃない。
久しぶりに会った同級生に見せる顔じゃねーよ。
誰にだって悩みはある。
そんな顔見せるなら、話してすっきりしろ。
話せないなら、せめて隠せ。
でも俺は、『なんか悩みでもあるんか、話ぐらいやったら聞くで』なんて言う気はない。
助けて欲しけりゃ、手ェ伸ばせ。

「彼女、おる?・・・おるやろな」
男山を呉春にかえて、水田が唐突に話題を変えた。
彼氏ならいるよ、と言ってやりたくなった。
でも、いやいやここは我慢。
いつぞやの大谷と俺は違う、ここで罵られても殴りかかられても絶対負ける俺じゃない。
それがわかるから余計。
お前と俺はもう住む世界も見る世界も違ってる。
俺の答えを待たずに水田は言った。
「俺も彼女おんねん」

ああ。
そういうことね。
嫁さんが2人目妊娠中に出会い系のサイトで知り合ったというからもう2年。
年上の独身OLで、お互い遊びと割り切ってる。
・・・らしい。
ホントか?
「遊びやったら、彼女とか呼ぶの変じゃね?」
「・・・そやな」
「もしかして、はまってる?」
「ようわからん」
「・・・両方、は手に入らんで」
こういう恋はな、水田。
始まった時点で誰かが、もしくは関わった全員が傷つくことでしか終われない。
女は鋭い。
嫁さんは気づいているかも。
女は強い。
彼女はいつか来る終わりと背中あわせで、おまえとの関係をつづけているはずだ。
男は脆い。
二兎追ってすべてを失って途方にくれるのは男だ。

「別れよ、ていっつも思うんやけどナ・・・・」
「罪悪感はあるわけやな」
「そらあるよ・・・嫁さん大事やし子供らももっと大事やし」
「大事なもん、しっかり守らなどないすんねん」
「わかってるて・・・せやけど」
「好きになるんは止められへん、やろ?」
水田がそやねん、と溜息をついた。
好きになるんは止められない。
不倫でも、同性愛でも。
基本的に俺は心も了見も狭い男だ。
心の中でざまぁみろ、と呟いていた。
過去の日、止められなかった大谷の恋心を罵倒したお前への罰じゃねーか。



「すまんなー、久々に会ぅたのにこんな話」
「聞いて欲しかったんやろが」
俺が笑うと、うん、まあな、と水田は素直に頷いた。
こういう秘密の話はあまり面識のない人間相手のほうが話しやすいもんだ。
「昔からいろいろ経験してそーやったしなおまえ・・・」
「どんなんやねん俺」
「聞いてもらえただけでだいぶすっきりしたワ」
不器用な男やな、おまえ。
誰にも言えないストレスを隠せもしない。
「力になれんですまんな」
心にもないことをすまなさげに言ってのけている俺のこんな小器用さよりは、よっぽど可愛げがあっていいが。
「そんなことない、ホンマ・・・ちょっと冷静になってみるわ」
呉春を水田の杯についでやると、水田は憑き物が落ちたように笑った。
その笑い顔に、少し見覚えがあって、一瞬鼻先に男臭さと埃臭さが充満する6年前の教室の匂いが蘇った気がした。



焼き鳥屋を出て駅までの道中。
半ば強引に携帯アドレスを交換させられて
「また連絡してもエエ?」
と聞かれたので
「まぁ必要最小限で」
というと水田が大笑いした。
「そう嫌うなよ」
「いや・・・今のツレがさ」
「なんでぇ・・・ええやん男同士なんやし」
「そんなん関係ないねん、男とか女とか」
「ふうん・・?携帯見られたりすんの?」
「せぇへんけどな。探られて痛い腹にしたくないねん」
「へぇ・・・えらい清廉潔白やな・・・やっぱりおまえ変わったわ」
昔はよく女でトラブってたやん、と水田がにやにや笑う。
「いつまでも遊んでられんでしょ・・・っつか飽きた」
「おーおー、言うやん・・・・そしたらいまの子と結婚とか」
「いや」
無理です(笑)
「・・・なんや、その即答」
「まぁさ、周り見てたら結婚する気なくなるっちゅーか」
うまくはぐらかすと水田はそう言うなや、と笑った。
「結婚て、なかなかええもんやぞ」
「おまえが言うな」
「だって俺、結婚せんかったらよかったって思ったこと、1回もないで?」
存外真面目な顔で水田は言った。

水田おまえさ。
ちゃんと自分の中にもう出てる答え、早く掴んでやれよ。


幸い水田と地下鉄が逆方向で、改札でじゃ、と別れようとすると、あ、と水田が作業服の裏ポケットを探った。
「忘れるとこやった・・・コレ」
「何?」
見ると居酒屋だかショットバーだかの名刺である。
「なに?コレ・・・」
俺の自宅から車で10分ぐらいか。
近い。

「大谷がやってんの・・・またよかったら寄ったってぇや」


大谷・・・?


「大谷って・・・」
「覚えてないか・・3年のはじめに退学したヤツ」
覚えてないわけねぇよ。
なんでおまえからあいつの名前が出るんや・・・?
「おまえあいつと仲よかったっけ・・・?」
「いや、いろいろあって、まぁ、仲ええっちゃあエエかな。」
「へえ」
「おまえと会うってゆうたら大谷も会いたいって・・・」
「そう」



お、電車きた、ほならなー、また連絡するからなー、と水田が手をあげて改札に消えていくのを俺は呆然と見送った。



本当に、人間って不思議だ。



なんとなく胸のつかえが取れたような爽快さとともに、俺は帰途についた。




いい酔いだった。






コメント
この記事へのコメント
【res:】
■玲さん■あはは、めっちゃ当たり♪
俺は自分からは自分のことめったに話しません、リアルでは特に(笑)
他人に関心が薄いんだろーね。
自分が興味ないものに対しては異常なぐらい無関心。来るものは拒まず(拒むのが面倒だから)だけどね・・・w
大体さ、相談もちかけたり悩みを打ち明けたりする人ってのは8割方自分で答え出てんだよね。
自分の出した答えを後押ししてほしいだけっつーか。
いや本当に途方にくれてる人もいるんだろうけど。
2006/05/17(水) 08:14:06 | URL | 恋児 #-[ 編集]
アタシも過去の話をされんのは嫌やなぁ。
覚えてもない過去をツラツラ話されても、わからんし。

けど、レンジってどこまでも受身なんよなぁ。
話たけりゃ話したらええし、
言いたくなけりゃいいなさんな。
そのスタンスは好きやわ(*´∀`)クスクス

結局相談側も、それ以上求めてないって所も
あったりするし。
突っ込まな吐き出されん人と、
突っ込まんでも吐き出せる人と。
ほんまイロイロ人間やなぁ。

レンは聞き上手やけど、
自分の事に於いて話上戸ではないっぽいなぁ(*´∀`)クスクス
2006/05/16(火) 21:54:18 | URL | 玲 #-[ 編集]
【res:】
■一志さん■えへへー、実は土曜日行ってきましたw詳細は・・・また書きます♪
俺は本当に高校時代は腐ってたので(それ以前もだけどw)部活ぐらいしか明確な思い出がないのです。クラスメートの顔だってまだ5・6年しか経ってないのに朧げ・・・wでも自分だけのことでなら、「俺は進化した」と思えます。絶望と恐怖と愛情と勤勉を知ったこの数年・・・
得る為に失くすなんてイヤだ。と思ってしまう俺はまだまだ青い・・・?(笑)

■アメミサ■だね。俺も意外だった。まぁ、水田も基本的に悪いやつじゃないんだろーね・・・

■沙羅ねえさん■笑った・・・wでしょ、でしょ。この気持ちわかってもらえて嬉しいw沙羅さんとはホントに共通項が多くてびっくりする・・・もしかして俺?w
ちなみに俺は人の顔覚えるのは苦手ではありませんが「自分に興味のないもの」を覚えようとしない病があります・・・w

■アコさん■あははさっそく行ってきました。大谷の店・・・いい店でしたよ。詳しくはまたアップします。確かに水田とよりは楽しかったかも・・・w
・・・か、隠しきれてナイッすか・・・w(微焦)

■どんこ■あはは・・・一匹狼、なんていいもんじゃないと思うけど・・・w協調性がないっつーか、もぅ基本的に俺は違う世界にいると思ってたし・・(何者・・・w)とにかく体も心も荒んで汚れてましたから(笑)

■きき■そう、そうなんだ。俺も思った。これが普通の男なんだろーな、って・・・でもまぁ、なんか人っていろんな局面をもっててすごく面白い、と思わせる出会いでした。
・・・まぁアレです。
まとめて言えば「水田は天然ミラクル」ということで・・・w

■そら■余所見クリック禁止。これが送信ボタンだからよかったようなもののヘンなサイトにつながるのだったらどうすんの・・・w迂闊者だねぇ。

■けいさん■ああ・・・確かにズルさ、っていうのは感じました。
常に安全な道を確保しながら事なかれでいる感じが否めませんがね。
でもなんか俺だってそういう生き方をする可能性だってあるわけで・・(いろんな意味で正直だから十分ありうるw)
明日はわが身・・・・

■ちとせ■強引に〆ましたね・・・w
所詮他人の歩く道なんだけどその方向や道の具合が気になるうちはまだ自分も社会に関われてるなぁ、とヘンな認識をしてしまうレンジなのですがーw
土曜に大谷の店に行きました。俺的にはかなり満足、いろんな意味で。
2006/05/16(火) 08:14:10 | URL | 恋児 #0iyVDi8M[ 編集]
ふむ。。
スッキリしたような、寧ろ余計に蟠っちゃったような…なんだろうなぁ。この感覚。。
ま、生きてりゃ色んなことあるわなー
…と無理矢理(?)自分に言い聞かせてみるw
2006/05/13(土) 23:43:28 | URL | ちとせ #-[ 編集]
水田さんに男の脆さとか弱さとか狡さとかを見せつけられてるようで=33
大谷さんとのコトにしても、良くも悪くも大人の男になった、ってコトなのかなぁ。
どうにも腑に落ちんです。
…今回、こういう考えもあるんだな程度で軽く流してください、ゴメンナサイ(汗)。
2006/05/13(土) 22:28:46 | URL | けい #-[ 編集]
あ?!
あら?
もしかして、私、秘密記事にしてる?・・・全然そんなつもりじゃなかったのに。。。。・゚・(*ノД`*)・゚・。
余所見しながら送信したら、変なとこクリックしてた。
2006/05/13(土) 17:02:43 | URL | sora #-[ 編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2006/05/13(土) 17:00:55 | | #[ 編集]
水田クンってよくも悪くも普通の男だなぁーっという印象をうけた。普通の人が一番ミラクルという意味でもねw
普通の男が普通に友人だと、男同士の友情を築いていると信じてた男に
告白された時の過剰な拒否反応も普通といえば普通。まして、こんなに不器用なタイプの人なら尚更ね。
でも、どういう経緯かは分からないけれど大谷クンとのつながりを、ただ切り捨てるだけにしなかったんだよね。
きっとそこにもドラマがあったのだろうな。
れんじくんの胸につかえていて、そして消え去ったもの。
そういうものを拾っては解き放つということが心の食事であり消化活動なのかな。

2006/05/13(土) 09:11:18 | URL | KIKI #A9cyFz3c[ 編集]
そうきたか!!
なんだ。若気の至りで殴っちゃってたんかのー。
ま。
その時は そうしなければ自分も大谷を同じにみられるという 若いとき特有の皆と一緒で安心みたいな感覚がそうさせたんだろうナァ・・・・

しかし高校時代は1匹狼のれんちゃん(▼∀▼)ニヤリッ
ネットじゃ素直ないい子になってるんですけどねーププ。やっぱ変わってるんじゃないの?コンタで出会ってさ(´ω`*)ポッ
いいことだわぁ♪
2006/05/13(土) 09:09:34 | URL | どんこ #-[ 編集]
コンタのこと(っちゅうか、同性愛のこと)を隠しきれてるようで、隠しきれてないレンジがおもろい♪

大谷には会いに行くんか?
多分水田と会うよりは楽しく話せると思うが…。
大谷と話す機会があったら
また状況教えてくれなー。
2006/05/12(金) 23:49:45 | URL | アコギスト #-[ 編集]
やほっ♪
いやー面白かった☆
ん?水田クンとの話じゃなくて、レンジの心の動きようがさ。
あまりにアタシに似ていて(笑)
アタシも同級生とか昔の知り合いに会うの、苦手。
人の顔覚えるのも。
無理矢理テンション上げるのとか、話は聞くけど自分からは話さないところとか
自分から悩みを聞いてやるのも嫌っていう天の邪鬼なところとか(笑)

・・・などと本題とは関係ない読み方してました☆
いや、でも後味爽やかで良かったよー。
2006/05/12(金) 14:56:47 | URL | 沙羅 #eHP7HEy2[ 編集]
あら、意外なオチやったなぁ。
私も最初ザマーミロと思ったけどちょっと穏やかな気持ちになれました。
ぁ、携帯から初コメント。照
前回の記事は学校で読むんじゃなかった。笑
2006/05/12(金) 13:24:19 | URL | アメミサ #i71gHzAs[ 編集]
どもっ!
同級生との話って不思議な力がある。
昔の自分を思い出させてくれる。
よくも悪くも過去の自分が浮かび上がってくる。
あぁ、こんなに変われたんだ。
あぁ、こんなに変わってしまったんだ。
色んな思いが交錯して今の自分と向き合いにされる。

いい時間を過ごせてよかったね。
今度はその彼の居酒屋に行ってみたらどう?
いーじゃん、理由なんて別にいらない。
顔見に来たんだ。って理由だけで会えるんだから。
また、いい酔いに出会えるかもよ。

『CHAENGING SAME』
変わり行く変わらないモノ
そう訳された曲が頭をよぎる。
2006/05/12(金) 10:02:04 | URL | 一志 #JalddpaA[ 編集]
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