何でも食ってええぞ、と言われても竹山さんの懐事情を知っているだけに天ざる定食なんて気がひける。
無難に「サービス定食/６５０円也」を頼んだ。
男３人でソバを食っていると、竹山さんがかしこまった様子でおいレンジ、と声をかけてきた。
「頼みがあんねんけど」
あぁぁぁ。そういうことね。
やっぱり天ざる定食頼めばよかったかも。
「きいてくれる？」
「・・・はぁ・・・内容にもよりますけど、できる範囲で」
「コレや」
そういえば事務所を出る時から竹山さんがぶら下げていたＡＢＣマートのビニールバッグを俺に差し出した。
「・・・？なんです？」
「しばらく預かってくれ。勿論見てくれてもええ」
「は？」
隣でキャバリエ氏が肩を揺らして笑っている。
俺はなんだが開けるのも気がひけてキャバリエ氏と竹山さんの顔を交互に見た。
「嫁はんのガサイレの予感がするんや」
キャバリエ氏が開けてみ、と促した。

ビデオだった。

よく売っているビクターの市販ビデオである。
背表紙には薄いブルーのラベルが貼ってあった。パソコン出力したらしいカタカナのタイトルと、数個のアルファベットと数字で印刷された品番らしきもの。
ああこういうの見たことありますワ俺。

「・・・裏・・・ですね」
「そやねん。やっぱ裏は見つかったらまずいやろ。しばらく預かってくれや。おまえ独身やし問題ないやろ？」
いや、俺的には問題ないんだけど。興味ないし。
それに奢りの昼飯食ってもたし。
「れんちゃん、見やん方がええぞ」
隣でキャバリエ氏がニヤニヤ笑いながら小声で言った。
「こいつの持ってくる裏、マニアックすぎて時々ついていかれへん」
「何ゆうてるんですか！」



こんなわけで、ＡＢＣマートの袋は俺の部屋のオーディオラックの上にしばらく居座っていた。
その存在感がなくなるまでたった一週間弱。
俺自身はそんな存在すら忘れていたのだった。


「これなに？」
見つけたのはコンタだった。
モノトーンの部屋の中で黄色に赤い文字がプリントされた袋はいわれて見れば確かに目立つ。
「ああ・・・・裏ビデオ」
「はぁ？」
コンタの声が険を含んだ。
「事務所の上司さんから預かってん。嫁さんに見つかりそうやから、って。」
「・・・見た？」
「あることも忘れとったワ」
「・・・・マジで？」
「そんな暇もなかったしなー。」
もともと俺は本物志向なの、知ってるくせに。
ビデオにもエロ本にも情熱なし。
むしろ自分の妄想の方がズリネタ的には優秀だ。
どうしても媒体を選べというならエロマンガがいいぐらい。
だから、
「見てみよーや」
と言い出したのも勿論コンタだった。

コンタ、まだ女に興味あるんやな・・・
なんてちょっとムッとしたのは内緒の話。


洋モノだった。
俺ダメなんだよなー、西洋人。
もぅあの喘ぎ声がだめ。
ラバー素材のボンデージを着た金髪のおねぇちゃんが台の上で数人の男女にいろんなところを触られている。
もう金髪で巨乳な時点でアウトだし。
ボカシなし。
コンタがすっげぇなぁ、と笑いながら楽しそうに見ているのが腹だたしい。
俺はつまらないのでベッドに横になってサンデーなんかを読んでいた。
「おい・・・ちょぉ・・・・」
しばらくすると突然コンタが画面をみたまま俺の腕をつかんだ。
「なんやねん」
「これってさ」
ようやくコンタが俺の顔を見てほら、と顎をしゃくった。促されて俺もそちらを見た。

画面の中では金髪のおねぇちゃんのアナルに別の女の指が４本、入っていた。ぬるぬるで、あまりにもスムーズな出し入れの為に、それがアナルと気づくまでに時間がかかった。
「アナルもの？」
コンタがちょっと狼狽した様子で俺の様子を伺いみた。
「みたいやな・・・・」
しゃれにならない。
俺たちの瞠目をよそに、金髪女のアナルは女の子の手を手首まで飲み込んでしまった。
「フィストかよ・・・・」
初めて見たって。
それもアナル。
くぷくぷいってますよ・・・
しかしアレだ。
「なんつーか、なんでこの子のアナルこんなにつやつやぴかぴかなん？」
俺は素朴な疑問を投げかけた。
女で白人だから？
それだけでこんなに白くてピンクなの？
なんか土の中にすんでいそうな軟体生物みたいだ。
「んー・・俺もさっきからすげぇ違和感なんよなー」
コンタが眉間にしわを寄せて腕をくんだ。
肩先からボクサーパンツとタンクトップであぐらをかくコンタの股間を覗き込んでみたがどうやらコンタのチンコも俺同様無反応らしい。
なーんだ、つまらん。
ちょっとでも勃起してたらそれをネタにまた虐められるのに。
画面の中では男優の超デカいチンコが金髪女のアナルにずっぷりと埋まっていた。
それでも出入りはスムーズ。
普通にセックスしてるみたいな動きの滑らかさ。金髪女は獣のように咆えて悶えて喘いでいる。
俺だったら絶対裂けてるって。
「ここまで広がるとさ、突っ込んでる方も気持ちよくなさげじゃね？」
コンタが真面目な顔で聞く。
「まあな・・・過ぎたるは及ばざるが如しっつーか・・・・あ、でもこの前の二本挿し、似たようなもんちゃうかった？俺的にはすげー広がってる感が」
「アホ、全然ちげーよ。だってあれはキツキツ感が」
「あ！」
俺は思わず声をあげた。
「なに」
「わかった、違和感。この子、毛がないんや」
ホンマヤ、とコンタも嬉しそうに叫んだ。
ああ、すっきりアハ体験。

真っ白で、ピンク。
クスコで開かれて、ビール瓶のようなものをつっこまれてかきまわされた彼女は散々彼女のアナルを犯した男たちのザーメンの一斉放射を体中でうけた。

ビール瓶を抜いた彼女のアナルはぽっかりと暗い穴をあけていた。
もうそこが俺たちの知ってるアナルだなんて思えなかった。
何かを入れて塞いでおかないといけないようなしまりのないシロモノ。
もしくは餌を求めて口をあける日陰の軟体動物。

「アカン、もう無理」
コンタが再生を停止した。
俺も同じ気分だった。
部屋は暑い。
いやな汗が首筋に纏わりついていた。
なんだろ。この嫌悪感。
見慣れないアナル、金髪巨乳。
無理しすぎた。
「なぁ・・・れん」
「うん？」
「脱いで」
「はぁ？」
「ちょお、れんの見せて」
「アホかやめぇ」
不意をつかれ後ろをとられてあっというまに下半身を裸にむかれる。
背中に馬乗りになったコンタに、尻たぶを左右に割り開かれた。
「やめんかいボケ！」
コンタがじーっと俺のアナルを見ている気配に俺は羞恥し、それと同時に妙に興奮してしまっていた。
明かりの煌々と照らすベッドの上で、下半身だけを晒され、あろうことか。
「・・・あー、よかった」
「何がやねん」
「れんのアナルで何も感じんようになってもてたらどないしょ思てん・・」
確かにな。
俺がもうちょい若かったら軽いトラウマになるわ、あの映像は。
「大丈夫やったんか」
「ホラ」
俺の尻の間にパンツ越しの塊が擦りつけられた。
ああクソ。
何ガチガチにしてんだよ。
「めっちゃ大丈夫」
「あっそ。ほな降りろ」
「そらナイワ」
コンタの舌先が俺の尾骶骨からゆっくり尻の谷間を舐めてゆく。
アカン。
アナルの直前で止まったコンタの舌が俺を煽った。
「おまえのココで、オレのチンコ締めてホシイなぁ・・・」




やっぱり、アナルって広げればいいってもんじゃないですね。
適度な柔軟さと適度な締め付けが醍醐味なのではないかと。
ええ。
指二本でいつもよりきつめに広げたアナルでコンタのチンコを締め上げながらレンジはそう思ったとか思わなかったとか。






っつかさ。
俺、次の日から竹山さんの見る目がかわっちゃいましたヨ。
不倫も女遊びもギャンブルも喫煙もしない、普通の幸せと家族に囲まれた少しばかりキレやすいこの男のマニアックさに脱帽な夕暮れ。

奥さんも大変だなぁ。