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自分の中の両極を、自分の中のけだものを。 制御し飼い馴らす方法を探す旅。
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オカマは何でも知っている。
指先の肉を削がれるという惨事のためバイト先の厨房シフトから一時開放された俺のケイタイに、オーナーから電話があったのはおとといの深夜。

オーナー自らレジ閉めに行く予定だったのが、出先の名古屋から帰ってこれないらしく(飲みすぎで運転ができず滋賀で立ち往生中。)急遽レジ閉めだけに出勤することになった。

あの。

夜中の2時なんですけど。



ラストオーダーが終わったころをみはからってしぶしぶ店に入ると、いつものごとくアケボノのカン高い声がとんできた。

「うぉぉぉ。れんさんどないしたんですかぁ!」

「アホ。お客さんおってなんやろ。声でかいワ」

あと一組さんだけですよぉ、と言い訳するアケボノを制して事情を説明していると奥のテーブルからだみ声。

「あらぁぁぁぁぁぁ!れんちゃん!今日休みゆぅてたんちゃうのん!」



時々ラストオーダーぎりぎりにかけこんできてすごい勢いで豪快に飲み食いし、すばやく去っていく、ステキなお客様。

ゲイバーのおねぇさま方である。

俺に声をかけたのはママ。

総勢6人、いつものメンツである。

「こんばんわ、いらっしゃいませ」

笑ってテーブルに近づくと近くに座っていた「みなみ」さんが腕を組んでムチムチの胸を俺の肘にぐりぐりとおしつけて

「私らに会いに来てくれたぁん?」と冗談まじりにシナをつくる。

「指ツメたゆぅてきいたでぇ」

「いゃあ、また包帯痛々しいわぁ~」

「まぁ座り座り。包茎アケボノちゃん生1杯だけお願いィ」(名誉毀損。)

「なぁなぁオフのれんちゃん見るのはじめてちゃう?」

「そのシャツどこで買うたん?」

6人がわれがちに話かけてきて、もぉよくわからない。

「レジ閉めだけオーナーに頼まれたんですわ」

「あぁぁ絶対またあのセンスの悪いバカ女とシケこんでんねんわー」

「あぁぁああのマンコくさそうな女ねー」(ひどいいわれよう。ドンナ女だよ。)

おねぇさまがた、きゃあきゃあいいながら盛り上がる。

いや

レジ閉めたいんですけど。

「こんなことマァないわぁ、れんちゃん飲みぃ」

「今から銭勘定せなアカンし、手元狂ったらどないしますの」

「何ゆぅてんの、ビール一杯ぐらいで酔うかいなぁぁぁ」

それでもやっぱり他人の金である。

うっかり間違ったらシャレにならない。

丁重に何度も断るがオカマさんたちは明るく陽気でそしてしつこい。

「ほな今から飲みにいくから付き合いぃ」

「えぇぇぇぇぇぇ」

ママが万札のぎっちりつまったプラダのサイフをかばんから出してきた。

「れんちゃんほなオアイソして。さっ、みんなさっさと料理片付けてしもて。あっ、もちろん私のおごりやから心配せんでえぇから。」



売り上げを夜間金庫にあずけて戻ってきた俺を拉致したのは俺より背の高い「かりん」さん。

「さささささ。行こ行こぉ」

けらけら笑いながら「どうかご無事でぇ」と言ったアケボノがかりんさんに無理やりホッペタチュゥをされるのを見ながら店のドアを開けると

3人の刺客。

本当に俺、どうかご無事で。





2人帰って残ったのはママと

綺麗系「みなみ」さんと(そのへんのホステスのおねぇさんより綺麗。爆裂オパーイ。)

体育会系「かりん」さん(ショーではレイザーラモンのものまねをするらしいw)

バラエティー系「すず」さん(リリアンみたいなカンジ。)

オトメ系「ミサキ」ちゃん。(ちゃんで呼ばないとすぐ泣きまねをする。カバちゃんっぽ。)



両サイドを「みなみ」「かりん」に固められて3杯目の水割りを飲み終わるまで、

どこのエステがいいとか

髭はどうやったらきれいに剃れるかだとか

新しくできたブランドショップの噂だとか

新色リップの発色の良し悪しだとか

そんなつまんないはずの話が独特の切り口で展開され、不思議と退屈しなかった。

話題が先に帰った「ヒメ」さんの恋人の話になった。

ヒメさんは人気ナンバー1のおねぇさんで、ルックスのよさはほかの追随を許さない。

「どうも今の彼氏、妻子モチなんやて。おまけにノンケらしいわ。」

「えぇぇぇぇ。チンコつきオカマで不倫で相手ノンケなんて三重苦やないのぉぉぉ」

「でもノンケの男、虜にするやなんかさすがヒメちゃんちゃう?」

下品な笑い、嬌声。

わいわいと同僚の恋の噂話に花を咲かせる彼女たちに苦笑いを隠せないママと目があった。

「れんちゃんってさぁ」

「はい?」

「男知ってる顔してるね。」



場が一瞬がしん、となった。



でも凍りついたのは場じゃない。俺だ。

うわ、どうしよ。

動悸が激しくなってきた。

平常心。

平常心。

落ち着け俺。



「あははぁ、ママ何ゆぅてんのぉぉぉ」

笑ったのは「かりん」さん。続いて「ミサキ」ちゃんがそやわそやわ、と同意した。

「どんだけこの子が女の子泣かした噂聞いたと思てんの」(啼かすけど泣かしません。)

「女の子縛らなチンコ勃たへんて聞いたでぇ?」(縛りはめったにしないんですが。)

「あそこのバイト全員れんちゃん試食済みなんやろ?」(誰が食うか!怒。)

俺ってそんな噂たてられてんの・・・?(汗)

っつーか誰だよ、発信源!(冷汗)

「俺すげー鬼畜やないですか」

「ちゃうのん?」

「確かに鬼畜ですけど」

いやぁぁぁん、と妙に盛り上がるおねぇさまがたを尻目にママの眼光はなんとなく鋭い・・・気がする。

ママが彼女たちを無視してタバコをもみ消す。

「なんか前と雰囲気が明らかに違うん。」

「そうですかねぇ?そんなこともないと思うんですけど・・・」

「私の目は確かや。」

タバコをもみ消したママの手が俺の鼻をぐい、とつまんだ。

「いで」

ママはそのまま俺の顔を自分の顔に近づけ、俺にしか聞こえないような声で言った。

「男も女も両方味あわな、あんたみたいなフンイキはでぇへんねや。」

そしてえい、と俺の鼻を開放してつきとばし、バランスをくずした俺は「かりん」さんに受け止められた。

またもあがる嬌声の中「かりん」さんは俺を後ろから抱きしめながら、くんくんと首筋を匂って「女の匂いしかしないわよー」としなをつくり、あんたの匂いでしょと「すず」さんにつっこまれ、笑いの渦の中

「よりにもよってれんちゃんが男にはしるなんてありえナーイ♪」

さとう珠緒の物まねでぶりぶりした「ミサキ」ちゃんに「すず」さんが出したブーイングを合図に場はなんとなく流れていった。

ただそれからの話題の中心は俺にうつり、俺のチンコのサイズだとか一晩に最高何回射精したかだとか、本当にありとあらゆるセクハラを俺は受けた。



訴えてやる!(小声で。)





開放されたのは朝の7時。

地下鉄で帰るつもりだった俺は無理やりママのタクシーに同乗させられた。

家をきくと結構近い。

たばこいい?と運転手の了承を得てからママはタバコに火をつける。

「さっきの話さ」

「はい?」

「男の話。」

「あはは、それですか」

「隠すんならいいんやけどさ。そういうのってどっかでしんどくなるからさ。」

俺は黙った。

「オープンにしといたほうがアンタのためかもしんないな、って思っただけ。」

気の利いた話のそらし方が思い浮かばず俺は窓の外の景色に目を泳がせた。

神崎川。御堂筋線は込み始めている。

「なんか困ったら頼っておいでよね。なんか力になれると思うからさ。」

あのバカどもには確かにばらさないほうがイイかもねェ、とママは笑って男の力で俺の肩を抱き寄せた。

「オカマはなんでも知ってんのサ。」

そしてがはは、とだみ声で笑った。







一部の人にわかる俺の「フンイキ」の変化。

俺には何がどう違うのか分からない。

週明けからはじまる大学で、それに気づくやつはおるんやろか。





一抹の不安とともに、最後の夏休み、カウントダウン。
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