一生眠らなかった男がいたそうだ。
その男は無意識のうちに脳をセクションごとに交代で休ませていたらしい。
このところ俺の思考が時々停止したりするのはそのせいか。
旋律は際立って入ってくるのに、歌詞がぜんぜん理解できなかったりするのはそのせいか。
言葉。
音楽。
色。
風景。
匂い。
味。

すべてが不規則にぼやけ、また不規則に鮮明になる感覚。
体は常にだるい。
この２日、ほとんど眠れていない。




ベッドに座って本を読む。
文章が頭に入らなくなれば音楽を聴く。
音楽に集中できなくなればＤＶＤを見る。
ＤＶＤがつまらなくなればＰＣを開ける。
それに飽きたら近所の本屋まで散歩がてら出かけ、
帰宅し、家族と話す。
飯を食い、少しの酒を飲む。
ベッドに座って本を読む文章が頭に入らなくなれば音楽を聴く音楽に集中できなくなれば・・・・・
その繰り返し。

俺の生活サイクルから睡眠だけがどこかに抜け落ちた。





昨日｡
深夜。
静かだ。
音はない。
電気はすべて消した。
カーテンごしに街頭の弱い光が闇を少し和らげる程度。
俺はベッドの上で横たわって、ぼんやりと天井をみつめていた。
否、見つめてなどいなかった。
何も見ていない。
見えてない。
俺が見てるのは自分の中だ。
自分の中から沸き起こる
不眠の中にあって低下し退化しそうな勢いの体力の中にあってすらまだ貪欲な俺の性欲。


鮮明な、
鮮烈な、
ソリッドな。


なんだかおかしい。
何も考えていなかったはずなのに、すでに股間では熱すらもって勃起する器官がある。
いますぐにでもそれを宥めて撫でて扱いて解放してやりたいのにどっかでそれをせせら笑ってる俺がいる。
大脳辺縁系に屹立するペニスを客観的に観察する俺の新皮質。

何がしたい？
セックス。でなければオナニー。
何がしたい？
眠りたい。
ナニガシタイ？
性欲の解放。

今何ができる？
オナニー。
したい？
したい。
どうやって？
チンコ扱いて。
どうやって？
アナルにナニカ入れて。
どうやって？
奥までえぐって。
どうやって？
深く突いて。


俺であって俺でない何かが問い、俺ではないのに俺である何かが答える。
シンプルな問答に刺激されるように俺のチンコはもう完全に勃起した。

深夜３時すぎ。
静寂と闇。
俺はローションとバイブを手に、珍しく全裸になった。


ほら、つっこまれたいんやろ？ケツだせよ。
「んう・・」
声は殺せなかった。
冷たいシーツの上に四つんばいになった。
尻を突き出すようにすると自然に頬がシーツに沈んだ。
その体勢が、さらに俺の性欲を刺激する。
ほら、自分でちゃんとほぐせや。
はよイれたぁてしゃぁないんやろ？
ローションを握り込んだ左手を伸ばしてアナルをなぞる。
「んはぁっ・・・」
ほら、ちゃんと指で広げろや。
ローションの触感と条件反射で入り口はもう若干ゆるい。
一気に２本潜らせて、腸壁の感覚を確かめる。
「く・・・」
ほらほら、そんなじゃ足んねーんじゃね？もっと入れろって。
3本、否、4本。
「ふぁ・・・・っっ」
ほら、入るやん。もっと動かせよ。いつもみたいにさぁ・・・
ゆっくりと手首を使って指をねじこむ。
「ぐ・・ぅ」
唇になにか硬いものがあたった。
首からぶらさげていたリングだった。
俺はそれを舐めた。
舐めて、口に含んで。
ちゃんと舐めろ、もっとやらしく。指もちゃんと動かせ。
自分で4本入れたまま動かすにはやはり無理があって俺は2本にもう一度指を減らし、今度は付け根まで指を沈めた。
ぐちゅ、とローションが静かな部屋を淫猥な音でいっぱいにした。
ほら、ちゃんと聞けや。おまえのケツの穴の音やで？

「うるさい・・・」
うるさい、黙ってろ。
俺の脳内サディスト分子がマゾヒスト分子を隷属させようとする。
俺が俺を責めてどうするよ。
どこかで冷静な中立の俺の意見など誰もきかない。
体すらもが裏切った。
あははぁ。
気持ちエェんやろ？
ほら、もっとかきまわせや。
いやらしい音でさ。
気持ちよくなりたいんやろ？
「んぅぅ・・・」
チンコ触ってみたら？
誰も見てないんやからさぁ。
右手をチンコにのばした。
自分で眩暈がするほどに硬くなって先から涎をたらした器官があった。
自分でケツの穴いじってこんなにしてちゃ世話ねー。
脳内に俺のサディスティックな笑いが響いた。
やめろ。
やめてくれ。
なぁなぁ、指やったら奥まで届かんで？いつまでそないしとくつもりなん？
暴走してる。
分裂してる。
なんだこれ。
ナンダコレ。



我慢汁でどろどろになったチンコを右手できつくしごきあげながら、アナル用じゃないバイブを咥えた。
このまえ買ったコンタのサイズに近い大きさの新品。
独特のシリコンの匂い。
あはは、バイブにフェラチオするんや？
もっとちゃんと舐めぇ。
誰も見てない。
誰も聞いてない。
誰も命令していない。
ここには俺ひとり、ただ俺ひとりなのに。
「んぐぅ・・・・っ」
喉の奥まで咥えこんで、ひきずりだしたバイブは俺の唾液に暗闇の中ですら発光しているように見えた。
入れたら？
もぉ欲しいてしゃあないんやろ？
好きなだけすきなように突いて抉れば？

左手を股の間から潜らせてバイブをゆっくりと沈めた。
「んぁぁぁっ」
声がでた。
背骨に沿って強い電流がゆっくりと舐めあげてくるような快感に俺はカラダを震わせた。
肩がわなないて、うまくささえられない。
そんなカッコじゃ奥まで突っ込めへんやろ。
体をなんとかおこして、バイブの基底部を手でシーツに固定しその上にしゃがみこむ。
声がでた。
殺せない。
自分の体重でバイブが根元まで一気に潜りこんだ。
それ、ええやん。騎乗位みたいでさ。好きなように動けるしよ。
もうやめろ。
もうやめろ。
冷静に俺を見てる俺
冷酷に俺を責める俺
ただただ喘ぎ欲望のままに動く俺。
誰だおまえ。
誰だ、おまえら。

バイブに跨って何度も奥まで抉りこませ、右手でチンコを扱きながら俺は分裂していた。
脳内は混沌。
性欲、支配欲、嗜虐欲、睡眠欲、黒々とした脳の闇の森をまるごと呑みこもうとする、ノルアドレナリンの嵐、ドーパミンの津波。
イきたい、イくな、もう少し楽しめよ、イきたい。
おまえら誰だ。



俺ダヨ。




腰の内側と下腹部あたりに白くて熱いものが凝って、俺のからだのすべてを真っ白に灼きつくし、脳内に閃光が満ち、

一瞬にしてすべてが霧散した。







俺はアナルにバイブを埋めたまま、あわててチンコを覆った掌にぶちまけられたザーメンのぬくもりを、漠然と感じていた。
なに？
脳内はもう静か。
少しばかり淫猥な静謐があるばかり。

後始末を終えて俺は全裸のままぼんやりとベッドに膝を立てて座った。


闇。
静謐。
なんやったんや。
あいつら。




ＳＭの自作自演？
究極のオナニーだよな。
だって
俺や、てゆうてんもん。
あいつら。



眠ることを忘れても、性欲回路は作動するようだ。
多少のバグは生じたとしても。






ちょっと楽しかった。
睡眠不足で回線がおかしくなった俺のオナニー。
かなり変。
思いだしながら書いてたら、またちょっと回線異常発生。
擬似多重人格？ｗ
なんか早く寝ないとマジやばいかも・・・・
怯えはじめた俺でした。
しかしすげぇなぁ、いろんな意味で。Ｓの俺（笑）





睡眠改善薬（●リエル）買ってきます。
効くかな・・・ｗ