コンタの土曜の予定は未定。
入社式後にいろいろとオリエンテーリングがあるらしい。

実のところ、土曜は朝からかなりやばかった。
体がいうことをきかない。
とうとうジョギングも断念した。
記事にしようにも実はどう過ごしたかあまり覚えていない。


ゆえにカタコトな記事になるのをお許しいただきたい（言い訳中。）


土曜の朝、俺の部屋。

エヴァンゲリオン。
デレクジャーマン。
攻殻機動隊。
ジーンシャフト。
昨日の晩から昔録画していたビデオが再生されつづけていた。
時々かなこが心配そうに覗きに来ていた。
そんなことが断片的に思いだされる。
昼メシに呼ばれてダイニングに降りようとした時に足を滑らせて階段の一番上から下まで落ちた。
背中を強打した。
一瞬息ができなくなって、また目が覚めた。
何もかもが腹立たしかった。
頭でも打って失神したかった。
昼メシを食べてから睡眠改善薬を飲んだ。
あたたかい午後。
ただやみくもに流れる映像たち。
記憶が混濁する。
今なのか未来なのか過去なのか。
昨日の晩、何食べたっけ。
朝、コンタからメール来た気がするけど気のせいかな。
さっきコンタとあった気がするけど気のせいかな。
もみじ（うちの猫）が『もうそろそろ寝なさいヨ、アンタ』って言ったと思うんだけど気のせいかな。



いつのまにか一時間半ほど眠れていた。



「・・・・まだ寝てへんのか」
ぼんやりとベッドの上で丸まっていると唐突にコンタの声が聞こえた。
コンタが俺の顔を覗きこんでいた。
目をあけていたはずなのにコンタが入ってくるのにも、覗き込まれているのにも気がつかなかった。
我ながらゾッとした。
俺どうなるんや？


コンタが俺の髪を撫でている。
話をしよう。
コンタがそういって、部屋の電気を消して俺の隣にもぐりこんだ。
向かいあわせに横たわって、俺は丸まったままコンタの胸に額を預ける。
　どんな話がええかな？難しいのイコカ。眠くなるようなヤツ。
カント、デカルト、アリストテレス。
プラトン、フロイト、イデアの世界。
俺の匂いがしみついた綿毛布。
　ひどい顔しやがって。
コンタが俺の髪を撫でている。

　何も心配すんな。
　おまえはおまえ。
　俺はそういうおまえが好き。
　これまでの人生、なんとかならなかったことなんかない。
　これからもなんとかなっていくはずや。
　あ、そうや桜咲きかけてたで。
　夜桜、キレイやったわ。
　明日ちょっと行ってみよか。
　な、れん。

　・・・・キスしてええ？

返事をしたかどうかすら覚えていない。

ただコンタの舌の感触、歯のかたち、唇の温度。
熱く沸き起こる灼熱した石のようなもの、それだけが行き場を失って下腹に猛った。






闇に浮かびあがる憂い紅。
絶対的な藍色すら押さえ込んで、闇夜に咲く花。
夜を霞ませて、静かな俺の心の闇に咲く、染井吉野。
ひらり、
さらり。
悠闇を切り抜いた優しくも潔い花弁が零れてゆく。
時が来た、時が来た。
ああ。
こんなに気持ちいい。
花弁が俺を快楽の残骸の中に沈めていく。

指先に髪に肩に触れる優しい花。











雨の匂い。
膝が痛い。
ここは？
肩にかかる俺の匂いのする毛布。
「よぉ、だいぶ眠れたやろ」
コンタの声。
あわてて時計を確認する。
４時。
ああ、朝方か・・・・
よく寝た感があるひさびさに３時間以上寝た。


「昼飯食うか？マクドやけど買ってきといたぞ。それか早いけどどっかメシ食いにいこか？」
・・・・
・・・・
・・・・


昼メシ？



「・・・・もしかして、夕方？」
「せやで？よぉ寝てたワ。」
「うっそ・・・・」
「もしかして覚えてないん？・・・・俺の口の中に出したのも？」
「・・・・マジで？」
「嘘ついてどないすんねん」
あはは、とコンタは笑った。
「体も頭も限界やったんやろなぁ・・・ちょっとスッキリしたやろ」
「嘘みたいや」
霧が晴れて、霞が去った。
体はまだだるいが、随分軽くはなっていた。
眠りの味を、俺はやっと思いだした。



深夜、2人で桜の咲く川辺にでかけた。
小さな川に覆い被さるように枝を伸ばす桜を橋の上から並んで見た。
雨上がりの水の匂い。
それをかきわけるようにして届くささやかな花の香。
まだ咲ききらない花の房からすら先陣をきって散る花弁。
人気のない橋の上。
コンタが俺の髪を撫でた。
「花・・・ついとる・・・」
そのままコンタの手は俺の肩を抱き寄せた。



指先に髪に肩に触れる優しい花。

優しい花のようなコンタの手。

あたたかく、やさしい手。








桜の下に止めた車の中。
夜の桜を散らして。

俺の体にもコンタの体にも桜の花びらが刻印された。









ご心配をおかけしました。
眠りを取り戻し新しい環境に身を置いて、体も心も復調の兆し。
しばらくはちょっとバタバタしますががんばります。
うむ。