「よぉぉぉ。お邪魔してま」
部屋のドアをあけるとやはり。
スーツ姿のまま床にすわりこんでFFⅩⅡ（勿論全然進んでない。）にいそしむコンタが俺を見ていつもの顔で笑った。
「おぅ・・・」
なにしてんねん。
とは一瞬いえなかった。
ウィークディにコンタが来ることも稀。
アポなしで来るのも稀。
俺の部屋に来て、着替えてないのも稀。
「・・・どないしたん・・・」
とりあえずそれだけを口にするとコンタはあはは、と笑った。
「急に顔見たくなってん。スマンな。もう帰るワ」

アホか。
誰がおめおめ帰すか。



勝手な行動、勝手な言い草をコンタにだけ許すわけにはいかんやろ。
俺は後ろ手にドアを閉め、鍵をかけた。
俺もスーツ姿のままコンタに跨ってコントローラーをコンタの手からとりあげた。
「ホンマに顔見るだけでエエんや？」
「・・・・」
「俺はキスしたいんやけど。」
「・・・・・」
「でもコンタがイヤやったらせぇへんよ？」
「・・・・れん」

俺がまたがってからと言うものずっと俯いていたコンタが、耳の端まで真っ赤にしながらやっと顔をあげた。
「れん」
「なんや」
コンタは何も言わずにただ俺を抱きしめてきた。
強いちからで。
暖かい腕で。
なんやねん。
どないしてん。
俺はあわててコンタの背中に腕を回した。
そしてコンタに負けない力で抱きしめ返した。
唇を掠めるコンタの耳元で、やっと小さく聞いた。
「どうしたよ・・・・？」
「笑わん？」
「笑わんよ」
「絶対？」
「絶対」
「まじで？」
「もぉぉぉはよ言えや！」




「セックスしよ」




あははぁ。

俺はコンタの後ろ髪を掴んで強く引き下げた。
コンタの喉がのけぞった。
「ええんかなぁ？そんなことゆうて、俺に火つけて・・・」
良かろうが悪かろうがもう手遅れやけど。
なんと言っても水曜日。
カラダが疼きだすころ。
週末に補充したあらゆる水分を失い、そして思い出し、カラダが乾き飢えるころ。
発火するのは簡単。
「ごめん、平日やのに・・・なんかやたらと欲しくて」
喉を圧迫されたまま苦しげに、そしてすまなさげにコンタは言った。
いいよ、俺は嬉しい。
おまえに抑えきれないほどの欲望を、俺が熾してやれることが。
おまえの欲望すべて、俺に向けられることが。
何があったのか知らない。
ただ俺の所に走ってきてくれることが。
何もできないただ抱きしめることしか、そんな俺を求めてくれることが。


猛ろうとしていた俺の中のサディズムという名のケダモノが膝を折った。
こんなおまえを、優しく抱かないでどうする？
俺はコンタの髪を掴んだ手を放した。
放して、キスをした。
優しいキスを。

首筋から鎖骨をなぞって、日曜につけたいくつもの花弁の色を更新していく。
おまえの体を埋め尽くしたい。
何度も抱きしめながら、何度もキスを。
触る前から硬く尖っていた乳首を口に含んで、吸って噛んで舐めて。
俺という存在で、いっぱいにしたい。
声を殺して、言葉を抑えた分だけ行き場をうしなった快感と感情が自分の中で波紋になって広がっていくようだ。
波紋になって広がって埋め尽くす、この感情。
すでに我慢汁を沁み出させているコンタのペニスを喉の奥まで咥えこんだ。
「んぅ・・・ぅ」
コンタが色めいた声で喘いだ。
この腕の中にあってまだ貪り足らず、この心の中にあってまだ切ない感情。
唾液を溢れさせ、舌を這わせ、唇をなぞらせて、時に俺の体の一番奥にある秘められた性感帯をこすりあげる硬く猛る器官を愛撫する。
花が開くような喘ぎの中に何度も僅かな声を洩らしながらコンタは俺の髪をまどろっこしげに掴む。
俺の溢れさせた唾液とコンタの垂れ流した我慢汁にローションを足してコンタのアナルに指を滑りこませた。
狭窄した、コンタの性感帯。
コンタがうあ、と声を洩らした。
唇を噛んで、それでも足らず毛布を自分の口に押し当ててコンタは自分の声を抹殺しようとする。
殺しきれない声が洩れてその声が俺の脳下垂体を直撃した。
下半身に熱く灼熱した石を埋め込まれたまま、口の中で更に硬度をあげるコンタのペニスを激しくしゃぶりあげる。
そのストロークにあわせるようにコンタの腰が浮いた。
もっと感じて。
もっと喘いで。
もっと俺を求めて。

もっと、俺を好きになって。


「もぉ、入れていい？」
「早よ・・・・」
コンタの言葉が途切れて、俺が口元に耳を寄せると、コンタの唇が外耳に触れた。
「早よ入れて･････｣
掠れたコンタの声に快楽中枢が白熱し、脳内麻薬が溢れ返った。


コンタの足を肩にかかえあげて、ゆっくりペニスの先端を潜りこませると、コンタが声をあげた。
色めいて、切なげな。
「コンタ・・・・」
俺は下半身に負けないぐらいの熱いものを胸に抱いた気がした。
ゆっくりと、ペニスをコンタの狭い肉壁に沈みこませる。
コンタが啼いた。
少しくるしげで、でも切なげで。
快感だけじゃない。
快楽だけじゃない。
それだけで、出せる声じゃない。
わかってる、知ってる。
「コンタ・・・」
俺はただ名前を呼んだ、名前を呼んで、指をからめて。
好き。

コンタが、にっこりと笑った。

「やっぱ、れん、おまえすげぇわ」


コンタのペニスを、突き上げるストロークにあわせて扱きあげて、毛布ごしのコンタの声をひとつひとつ拾っていく。
優しくしたかったのに、ごめん。
あっという間に制御できなくなって体を衝き動かす乱暴で本能的な律動でコンタの深部を何度も何度も擦りあげる。
優しくしたかったのに、ごめん。

毛布ごしにもはっきりと聞こえる声をあげてコンタが先に射精した。
俺の手の中で跳ねるペニスの感触を楽しみながら軽く強張ったその体を更に強く突き上げて。
コンタの腸壁の締め付けに耐えられず、俺もその後を追うようにザーメンを搾りだした。

下半身に埋め込まれた石は放熱したが、胸元を暖める石は熱さを増した。



「今日さー、所属部署の仮発表やってな・・・」
「うん？」
「ほら、俺英語まぁ普通やん・・・」
「ああ・・・」
コンタはTOEICレベルCだった。
普通に外国人と日常会話ができる程度だ。
元々外国語大学目指してたし当然か。
「1人だけ、上海支所行き枠があってさ・・・・他は全部大阪なんやけど」
「・・・・」
「俺、セカンド中国語やったし・・・・」
「・・・・・」







えぇぇぇぇ。
なんだよー！
その間・・・・







「上海って、どう思う？」

どうもこうも・・・
いやいや。
今俺パニックですから。
上海？！




長距離恋愛なんか無理。
コンタとならなおさら無理。
好きすぎて、自滅する。


俺の頭の中を悲観的な言葉たちがぐるぐると行き場をなくして渦巻いていた。
多忙、仕事、勉強、距離、時間、思い、疑惑、不在。
だめだ。
処理できない。




「まぁ俺は大阪勤務に決定したけどねー。」
「・・・・」
「昨日はマジで焦ってさ。今日発表あって安心したら、なんかれんの顔みたくなったっつーか、こう、日本を実感したくなったっつーか」


俺は日本？
すげーカテゴリー分けだなｵｲ。
でかすぎるよ、その概念。
ってかさ。

「紛らわしい・・・・」
「あはは、れんが動揺する顔見たかってん」
「しばくぞ」

いやすぎる。
その冗談。
「ごめんごめん・・・・」
コンタがあわてて俺の手を掴んだ。
「泣くなって・・・・ごめん」


ばーか。
泣いてねーよ。
涙が出そうになっただけや。
おまえのいない日々を考えて。



ええいムカつく。
もう帰れ、といいたいところだけど。
胸のあたりの熱いものがつかえて言葉が出なかった。
「まぁ・・・遠くにいかなくてよかったワ・・・」
なんとかそれだけが言えて、なんとか無理矢理笑えた。
ごめん、と抱きしめられた。
胸のあたりの熱いものはますます灼熱するばかり。
せつないものをふりまきながら。




ほんとはさ。
来てくれて嬉しいって。
俺のところに来てくれて俺の腕やキスを求めてくれてありがとうって。
だから、どこにもいくなよって。
手の届く場所にいて欲しいって、わがままでも、いて欲しいって。





そういいたかったんだよ。