「おかえりなさい、れんさん！」
ああ、和むなぁ（笑）
「かなこは？」
「なんか遅くなるってメール来ましたー」
「悟朗ちゃんおまえもっと怒れや・・・」
彼氏呼びつけといてなんだその仕打ち。
「あ、そだ、れんさん般教（一般教養）で■■教授の行動学概論とりました？」
「あーとったと思う」
「テキスト残ってたら譲ってもらえませんかねー」
大学のテキストはやたら高い。
政治学のテキストは４０００円近かったなぁ・・・だから古本屋が儲かるのである。
「残っとると思うで・・・それ食べ終わったら部屋きぃや。」





部屋の隅、大学で使ったすべてのテキスト仕舞ったはずのダンボール箱を漁っていると悟朗ちゃんが缶ビールを二本もってやってきた。
「すみませーん、手間おかけして」
「かまへんけど・・・あとは自分で探せ、この箱の中全部テキストやからいるとあったら持っていってエエぞ」
はーい、と返事をして、缶ビール（それもエビス！）を俺にドゾ、と手渡した。腹は減っていたがとりあえず喉もかわいてるし、俺はネクタイをゆるめながらビールをあけた。
俺に背をむけて、悟朗ちゃんは丁寧にテキストを一冊一冊確認して出しながら言った。
「れんさんなんか最近めっきり雰囲気変わりましたねー」
「んぁ・・・？スーツ着てるからじゃね？」
「いや、なんか・・・エッジがとれたというか、なんというか」
「なんやワケわからんのー」
あはは、と笑いながらデスクに掛けた。
前日は勉強しながら寝てしまったのでデスクの上はＰＣ前以外むちゃくちゃだ。
一冊ずつしおりをはさみながらかたづけていると、悟朗ちゃんが言った。
「れんさんの彼氏って、コンタさんって人ですか」




えぇぇぇぇぇ？
なななななんのことデスカ？

「前のは、彼氏っていうのは、冗談やって・・・」
あわてる俺をさえぎって悟朗ちゃんがあはは、と笑った。
「大丈夫です、俺かなこのおかげでそういうの耐性ありますから・・・ついでにいうと直感も働くタイプです」
悟朗ちゃんが振り向いて、ビール片手にフリーズした俺を見てにっこりした。
「かなこがね、最近お兄ちゃんの彼女がこない、週末になって泊まりにくるのはコンタさんばっかり、ってこの前言ってましたんで・・・ナルホドソウイウコトカ、と」

俺の中で葛藤があった。どっちの方がスマートなんだろう。
嘘をつきとおすのと、さらっと認めてしまうのと。
「まぁかなこのことやから洩れなく妄想しておられますがー」
よもや妄想以上のことが行われているとき夢にも思うまい・・・（笑）
また、あはは、と笑って悟朗ちゃんはすっくと立ち上がった。
俺より、そしてコンタよりでかい元柔道部の悟朗ちゃんがそうやってたちあがると、弱みを握られた感もあいまって、さながらグリズリー的な迫力だ。
「俺、一応言ってませんからね誰にも。ああいうのは個人的な趣味の範囲だと思いますし・・」
「趣味カヨ」
「まぁなかなか習俗的に市民権得られてない感はありますけどね・・・まぁれんさんならそういうのもアリかなみたいな・・・」
「ワケワカラン」
「いや、ホラなんかねー、れんさんってこう、男なんだけど色っぽいっつーか、あー違ううまく言えないなぁ・・・・いい意味でも悪い意味でもボーダーレスっつーか・・・なんかね、バイセクシャルっていう響きが妙にれんさんに似合うっていうか・・・あーーーもうわからんけどそういうことです」
「どーいうことだよ・・・・」
俺のほうが全然ﾜｶﾗﾝ。っつかちゃんと組み立てて話せ、文学部。
「ほらこの前、かなこに頼まれてれんさんにハグしたやないですか」
かなこの陰謀でね。
「ああ・・」
「俺ちょっとグラッときたんですよねー。」
えぇぇぇぇぇぇぇ。
急に悟朗ちゃんが巨大化して見えるよ、怖いよ・・・（笑）
もうトラブルはヤなんです俺、勘弁して。
「ちょっとだけですよ？すぐ復帰しましたよ？でも、ああ、そういう魅力っつーか引力があるんやなー、って妙に実感したです俺」
あはは、と笑って悟朗ちゃんは行動学と歴史のテキストを俺に見せて
「コレ、借りていいですか？」
と聞いた。
「やるワ。返さんでエエぞ」
妙に喉が渇いていた。
ビールを一気に半分ぐらいまであおり飲んで、再び座り込んで出したテキストを箱に戻しはじめた悟朗ちゃんの後ろ姿をぼんやりと見つめた。
誉められたの？
けなされたの？
ホントウに、よくわからない。
へぇ、そうなの？的な。
自分の精神的な性格的なところならある程度指摘されて「ああそういうこともあるかな」ぐらいに思えるが、自分の雰囲気とか容姿とかそういうものに関してはとりわけ実感できない。
みんなそうだよね。
いくら自分の心を覗けても、自分の性格を客観的に評価できても、雰囲気みたいなものは絶対にわからない。
だって、俺は俺で、キミじゃない。
ビールが空になるまで悟朗ちゃんの劇団の話をしていた。
この夏の公演でやっとちょい役ですけど舞台に立てるんです、と嬉しそうに笑う悟朗ちゃん。
チケット売りつけますからよろしくですよ。
悟朗ちゃん。おまえはいいヤツだなぁ。
おまえみたいな弟ならできてもいいよ。
ちょっと怖いけど。


かなこから迎えにこいメールが来たらしく行ってきます、と立ち上がった悟朗ちゃんはテキストの礼をすませ、部屋をでがけに、あ、と振り返った。
「あいつれんさんにまたコスプレさせよと目論んでるみたいッスよ？・・・ほら、ＦＦ1２のバルフレア」

キター！
バルフレア（笑）

キャラ的には大好きだけど、コスプレは絶対イヤ・・・・
っつかさ、かなこ。
独学で服作っちゃうぐらいの情熱、他に向けられんか？




あ、そういえば今回も結局、俺ははっきりと肯定も否定もせずにはぐらかしてしまったなぁ。
多分悟朗ちゃんの中で答えはでてるんだろうけど、俺の答えを聞くまでもなく。

俺みたいに理詰め、言葉、また言葉で相手を追い詰めない悟朗ちゃんが、俺は好きだ。












追記:
投稿当初、慣れないテキストエディタなんて使ったおかげで改行なし段落なしのちょっと危険な記事になってました。気がつかないで投稿してほったらかしでした、ゴメンナサイ・・・
みんなヒいただろうなぁ・・・（ﾄｫｨﾒ
それほどに狂気じみた迫力がありましたｗ（笑いごとではない。）
それを４時間、放置してたという・・・・反省。
ちゃんとプレビューはしないといけませんね・・・
この１０時台から現在までの間にこられた方、大変失礼しましたorz