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自分の中の両極を、自分の中のけだものを。 制御し飼い馴らす方法を探す旅。
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生という旅【res:】
日曜日。
近所のパスタ屋で遅い昼メシを食いながら、コンタが言った。
「4日と5日さー。おまえ予定どうなってる?」
「からっぽ。」
「そーなんや・・・何するん?」
「勉強すると思うけど?」
「んじゃさー。勉強ちょっと休んでもらってさ。ちょおつきあって欲しいトコあんねん」
聞けば、豊岡市に住んでいるじいちゃんに会いにいきたいという。
豊岡市は兵庫県に属する日本海に面した盆地で、いつぞやは水害で被害をうけた町だ。
「今年に入ってボケが始まったみたいでさ・・・すごく進んでるみたいやねん。俺の顔覚えてるうちに会っとこうと思ってさ・・・」
「そっか、そやな、ええで。車出したるわ」
「すまんなー。まぁもう見ても俺の顔分からんかもしれんけどな・・・・」
コンタが少しだけ寂しそうに笑った。

俺とコンタが大学に復帰した後。
いつごろだったかな。
男四人で飲んでいた。
隣で椅子からずりおちそうになりながらうとうとしてたのはたしかケイタだった。
タイジはさっきから彼女相手に携帯で話をしている。
とにかくみんなかなり飲んでいて、コンタもいつもに増して饒舌になっていた。
俺の大破したハーレーの話とか選択科目の女教授の話なんかで盛り上がったあと、話題がとぎれた。
俺はそこだけ切り離されたような束の間の静寂に一息ついてジンをあおり飲んだ。
ジン2杯分の沈黙。
唐突にコンタが切り出した。
「俺の家系ってさー、ヤバいんだよねー」
「あぁ?」
「頭おかしいっていうかさ・・・」
俺が相槌も打てずにいるのにもかまわずコンタは一人ごとのように続けた。
「親父の兄ちゃん三人おるんやけど、一番上のおじさんは首吊って自殺してるし、二番目のおじさんは精神病院入ってるし、三番目の人は行方不明やねんで。それも俺が生まれる前から。会うたこともあらへんわ」
親父はあんなやしな、と笑った。
コンタの休学の原因は親父の失踪だった。
俺はどういう相槌をうったらいいのかさっぱりわからず
「そーなんや・・・」
とまぬけな返事をした。
いつのまにか電話を終えていたタイジがうへぇ、と奇声と共に会話に加わった。
「んじゃさ、おまえもヤバいんじゃねー?」
ココ、と自分の頭を指さして大笑いした。
そーやねん、明日はわが身やねん、とコンタが磊落に笑った。
つられてタイジも笑った。
日頃のコンタからは想像もできない、暗い血脈。
明るくて人懐っこい、そして気遣いのできる男の影。

・・・自分がちょっと怖いよなー・・・

薄いバーボンのグラスをカラカラと回しながらコンタがひとりごとのようにもう一度いった。
やはり俺に言葉は見つからなかった。





コンタの親族、と聞いて俺はそのことをふと思いだした。





「なぁ、ちょぉ。聞いとるか?」
気がつくとコンタがフォークを俺の鼻先に突きつけていた。
「え、あ、うん」
「聞いてへんし。」
コンタがちょっとムッとしたように眉をひそめた。
「ごめん」
「だからさー、ホテルのチェックインが16時やから、早めに出てどっかで時間つぶそうや、って。途中で出石そば食お」
「ホテル?じいちゃんちに泊まるんちゃうの」
っつか
手回しよすぎね?w
俺が豊岡行きを断る、っていう可能性は考慮されてなかったわけだ。
おまえすげーな、いろんな意味で。
控えめなんだか強引なんだか。
「じいちゃんち団地やからなー。泊まれんこともないけど・・・なんもできんやん?」
コンタがにやり、と笑った。
なにするつもりだよ。
って
アレだよね?w
「せっかくやしな。ビジネスホテルしか取れんかったけど・・・マリンワールド近いから魚見にいくのもええなー」


ゴールデンウィーク、長期休暇には人口が増える地域柄、有名な温泉も近い町。
ビジネスホテルとはいえ予約を取るのはひと苦労だっただろう。

そうだ。
そうだった。

俺はきっと自分の想像以上にこいつのことが好きだ。
俺と時間を共有するための労力を惜しまないこの男が。
こいつがどうなるかなんてどうでもいいことだ。
俺がどうあるか、それさえしっかりしてればいい。
誰にも訪れる、老い、病、忘却、死。
生が始まった瞬間、時間のベクトルはただまっすぐにそれらに向かって進みはじめる。
俺はパンをかじりながら漠然と思った。
病の岩場、老いの細道、忘却の山道、死の断崖。
日のささない道。
お前が昏い道に足を踏み込むというなら
俺はその前にその手を後ろから掴んで阻もう。
それでも昏い道に迷いこんでしまったなら
その時は明るい方へとおまえの手を牽いて歩こう。
それまでは、隣で歩こう。
先のことなんてわからない。
なのにそんなことを考える。
そう
それほどに。
コンタのことが好きなんだ。



「・・・そんなに嬉しい?」
コンタが俺の顔を覗き込むようにして笑った。
いつのまにか口元が笑っていたようだった。
「嬉しいで」
「ほんま水族館好きやなー」




・・・そういうことにしときます・・・orz





コメント
この記事へのコメント
【res:】
■きき■コンタは時々天然さんなのでおもろいですw
ある人に叱咤激励ついでに言われた言葉。
「そんななるかならんかわからんような病気より、交通事故にあう確率の方が切実やで!」
ごもっともw
明日はどうなるかわからない御時世。一瞬ごとに生きていきたいと思うレンジでありました。
2006/05/11(木) 08:00:36 | URL | 恋児 #-[ 編集]
「ほんま水族館好きやなー」
・・・コンタくん、最高!(* ̄m ̄) ぷぷぷ

血はたしかにあるものかもしれないけれど
今、目の前にいる人の今の姿がわたしにとってはすべて。
リスクがちょっと高いということがあるのかもしれないけど
病や事故の可能性は万人にあるものだしね。
と、リスキーな血を持つ旦那持ちの私は思うようにしています。(*´ー`)
自分自身もだけどさ・・・( ノェ)コッソリ (笑)
2006/05/08(月) 17:32:30 | URL | KIKI #A9cyFz3c[ 編集]
■アコさん■うん、実は最近自分の思考がややポジティブになってきているのを自覚中・・・もともとネガティブ思考派ではなかったけど、どっちかというと楽観的ペシミストだった・・・
他人に影響を受けるなんて俺のスタイルじゃないのに。
でも、影響されるって、結構きもちいい。

■一志さん■自分の変化に驚きです。俺は自分で思っているほど頑固ではなかったということですかね・・・w
誰かを大切に思う気持ちはこんなに自分を変える。
怖いような気もします・・・

■のぶさん■こんにちは。コメントありがとうございます。
実際俺の親族は長命でぽっくりいく方が多いようなので今回初めて身近に痴呆とか認知症とかを感じました。老いでなくても記憶を失っていく病気だってあって、いつ俺がそれにかからないとも限らない・・・一寸先は闇。

■そら■ぷ。ごくフツーにセックスしましたよー。

■どんこ■コンタにはそういう血を感じさせるところがなくてさ。だから俺もすっかり忘れてた。でも俺にはどんなコンタだって必要だと思う。ただいるだけでいい、なんて今は綺麗事だけど、きっと最終的にはそうなるやろな。
>人間の悪いところばっかりに目をむけるのは簡単だけど いい所だって沢山あるのにね。
そうやんな、悪いとこばっかり見てたら誰も好きになれない、信用できない。
どんこはやっぱすげぇ。年の功だなー。(笑)
2006/05/08(月) 07:54:43 | URL | レン #-[ 編集]
そうだなぁ・・・
いろんな血があるよ。
高血圧症だったり 癌の血統だったり アルコールにおぼれてバカになる人たちもいる。
そのなかの一つの血だ。

でもそういう血のコンタがすきなんだもんなぁ・・レンジは。

うちの妹も結婚するにあたってうちの親父から凄い反対されたんよ。
彼氏(いまは旦那)の姉ちゃんは自殺したばっかりだったし 彼氏の父ちゃんは酒癖の悪さで有名で 結局は酒に飲まれて海で溺死したからなぁ・・・
人間の悪いところばっかりに目をむけるのは簡単だけど いい所だって沢山あるのにね。
もちろん父ちゃんを説得させて妹達の結婚をOKさせたのはわしの力です( ゚3゚)ノ
2006/05/05(金) 09:52:32 | URL | どんこ #-[ 編集]
なーんだ、レンジいないのかぁ。今頃ビジネスホテルであんな事やこんな事を?!

2006/05/04(木) 23:50:06 | URL | sora #-[ 編集]
すなおにそんな家族か゜いなければ気にしないが
年くればそのようになるよー

2006/05/04(木) 01:15:36 | URL | のぶ #-[ 編集]
コンタくんの事を考えるだけでそんな表情ができるんや。
気持ちが素直に表れるようになってきたっちゅう事やね。

家系や血筋や…と考えてしまう事もあるやろけど
そんな『負』のパワーなんか吹き飛ぶくらいの
恋児くんのパワーを感じます。
最期まで一緒にいたい。
そんな恋児くんの強い想いを再確認されられた今日の記事でした。

2006/05/03(水) 14:22:10 | URL | 一志 #JalddpaA[ 編集]
>お前が昏い道に足を踏み込むというなら
俺はその前にその手を後ろから掴んで阻もう。
それでも昏い道に迷いこんでしまったなら
その時は明るい方へとおまえの手を牽いて歩こう。

コンタもレンジも考えてる事は同じヤン?
お互いがそう思えていれば
二人の将来は明るいな。
お互いが明るいほうに誘導してるんやからな。

ってか、コンタに
「俺の嫁さんだ」って、じいちゃんに紹介されたりしてな…。あは。
2006/05/03(水) 14:06:15 | URL | アコギスト #-[ 編集]
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