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自分の中の両極を、自分の中のけだものを。 制御し飼い馴らす方法を探す旅。
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世界が昏くなる日がきても。【res:】



生まれ生まれ生まれ生まれて生のはじめに暗く
死に死に死に死んで死の終わりに冥し








水曜、朝。
晴れて乾いた空気、本当なら爽快な気持ちで歩き出せるこの喧騒の中、
不安要素をふんだんに詰め込んだ紹介状の茶封筒片手に俺は某大学付属病院を訪れた。


病んだ喧騒。
いつまでも好きになれない。
内科や外科に比べれば病人色が薄いのが救い、といったところか。
事前に問い合わせ、紹介状を預かっていることを伝え、更に10時の予約まで取ったというのに10時になっても10時半になっても名前が呼ばれる気配はなかった。
微音量で明るい音楽を聴きながら待つ時間。
健康的ではないが久しぶりに「ノンアクティプな時間」を授かった、と思えば苦にならない。
所長に事の顛末を説明したおり、所長が言った言葉を思いだす。
『あー、あの病院な・・・ほな、1日仕事やな。』
快く休みをくれた所長に感謝、まぁ俺の職場での重さなんてまだその程度だし。
11時をすぎてやっと中待合に名前を呼ばれたが、中待合にもざっと20人近い患者が待っていた。
先はまだ遠い。
減っては増える外来患者。
外来患者は勿論、医師の数も半端ばゃないことがそのうちわかった。
視力などを測る技師、視野を測定する年配医師、撮影室から時々出てくる女医、そして診察室ではおそらく4人の医師がそれぞれの患者を診ているようだ。
その間をカルテや写真を持って行き来する若い医師が数人。

ほどなく年配の手際のいい看護士が俺の名前を呼んだので手をあげると近づいてきて目薬をさした。
検査のために瞳孔を強制的に開く目薬だ。前の眼科でも使った。
音楽。
軽快なギターと明るいボーカル。
その中で、ゆっくりとメガネでも1.0までしか矯正できない俺の低い視力が失われていく。
清潔な白い蛍光灯すら眩しい。
世界が泣いているように滲んでいく。

俺は目を閉じた。




12時前、中待合にも人が少なくなったころやっと診察室に呼ばれた。
年配のその医師は俺の目を診察したあとさっそく検査をしたいときりだした。
網膜の向こう側の血管を薬を使って浮き上がらせて撮影するという。
面倒ごとは早く済ませるに限る。
俺は快諾した。

注射器でゆっくりと流しこまれた造影剤で気分が悪くなった。
開ききった瞳孔に撮影のフラッシュは拷問だった。
助手らしきお兄ちゃんが反射的に閉じてしまう俺の瞼をこじあける。
はいキリシタンです踏み絵でもなんでもします、といいたいぐらいに辛かった。


午後2時すぎ。

診察室に呼ばれた。



もう誰もいなくなった広い、しかし薄暗い診察室。
先ほどの医師がカルテと写真とを見ながらううーん、と唸っている。
俺が呼ばれて椅子に座ってもう1分近くもそうしている。
周りの医者もそれぞれの椅子にかけたままこちらに注目している様子なのがなんとなく息苦しい。
「んんー・・・よくないなあ」
「よくないですか」
「うん、いい状態ではないなぁ」
「はあ・・・」
ちゃんと説明しろジジィ。
西村雅彦風に禿げた、年はまだ若そうな医師が俺の横からアクリルのプレートを差し出した。
眼球解剖図、とでもいうのか。
目の前のジジイがうーん、と唸りつづけているのをよそに、その医者がペンを使って図を指し示しながら俺の目のおかれている窮状を説明してくれた。


病名は、脈絡膜炎。
網膜のまだ奥にあるかの膜が炎症をおこしている状態だという。
俺の場合、炎症はすでに起こってしばらくたっていて、俺の視野を遮る影の正体は、いわゆる「かさぶた」のようなものなのだという。
炎症を起こし腫れて浮腫が生じ視界を歪ませ、瘡蓋が視野を遮る。

「効果的な治療は今のところありません」

なんでねぇんだよ。
と言いたい気持ちを俺は堪えた。
現代医学はなんでも治せる、そんな考えは毛頭なかった、ただ。
なんで俺が。

レーザー治療で瘡蓋をとってしまい出血を止める手術もあるが、手術後の視力は多分今より更に低下するということ。
比較的めずらしい病気で、原因も特定できていないこと。
急変する可能性があるので定期的に診察をうけるのがのぞましいこと。
炎症を抑えるステロイド剤を服用して様子を見ること。

「じゃ、この見えにくいのん、このままなんですか」
「炎症がおさまれば幾分かは改善されると思いますが、はっきりとはいえません」
「なんか日常生活で、これはやめた方がエエとかないんですか。酒とか煙草とか」
「原因が確定できないのでなんとも。ストレスとか遺伝とか、いろいろ説はありますが、なにしろ罹患されてる方が少ないので」
「じゃ、これ以上すすまないように予防とかもできんってことですか」
「そうですね・・・定期的に診察させていただくことで、いくらかは予防になるとは思いますが」
「目が見えなくなったり、とかは・・・ないですよね」



「ないとはいえません」









腹が減っていた。
午後3時。
会計をすませ、次回の予約票を受け取り、院外薬局で「プレドニン」なる薬を処方してもらった。
散瞳薬の影響が残った俺の目には、午後の日差しは明るすぎた。
日差しから逃げるようにかけこんだ病院の近くのうどん屋でざるうどんを食べた。
うまくもなくまずくもなく、しかしただ腹は膨らんだ。




俺は前向きなペシミストだ。
いつも最悪が来た時のために最善を尽くす。
備えあれば憂いなし、といえば聞こえはいいが要するに逃げ道は常に確保しておくタイプということだ。
うどん屋の大将の入れてくれた番茶をのみながら逃げ道を探してみた。
俺の世界が暗くなる時のための、逃げ道。

美しい絵が見れなくなるときのための
心動かす風景を映せなくなったときのための
この世界にある俺の好きなすべてを
この世界にあるすべての名前無き色彩を
この世界に存在する、俺の愛するひとを

見つめられなくなる日のための。






そんな逃げ道、どこにもなかった。






逃げてはいけないんだなぁ。
何度かやってきたし大丈夫。




俺はまだ戦える。




コメント
この記事へのコメント
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2006/06/13(火) 15:10:57 | | #[ 編集]
【res:】
■Mr.S■はじめまして。読んで頂いたんですね、ありがとうございます♪
実はあのあと、職場の上司の方々からもSさんと同じことをすすめられました。早速2件ほど名医がいるという病院を当たってみましたがほぼ同じ診断でした。
いろいろ考えることが多すぎて今ちょっと立ち止まってしまってます。
病院に割ける時間と仕事の兼ね合い、試験、何もかも手放したくない俺が貪欲なのかもしれませんが・・・いや、逃げてるのかも。諦めるつもりはまったくない、俺はまだ戦う、これでも気持ちだけはイッチョマエなんですよ?w
ちなみにまだコンタには言えてません。なんかうまくタイミングがつかめなくて・・・ヘタレですね。多分コンタも仕事がいっぱいいっぱいなんだと思います。
コメント(というにはあまりに愛情に満ちた言葉でいっぱいで、嬉しくも恐縮ですが)本当にありがとうございました。こうして時に手を引き背中を押してくれる方に俺は支えられたりしているんだなぁ・・・・
これからもよろしくお願いしますw

■めぐ■めぐのURLに飛べない・・・(泣)殻に辿りつきたいんだけど。めぐは俺の心配ばかりしてくれるけど俺はめぐの方が心配なんやで。
さっそく発熱したけどなんとか復帰できそうですw

■Miss-M■まだ見えなくなるって決まったわけじゃないしね。可能性がゼロではないというだけでさ。心配しないで、俺はもう大丈夫。うまく病気とつきあっていきながらなんとか乗り越えてみようと奮起してるトコだから。いつも大事に思ってくれてありがとう。
2006/06/10(土) 22:39:59 | URL | 恋児 #0iyVDi8M[ 編集]
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2006/06/08(木) 00:22:02 | | #[ 編集]
過労を避け、精神的なストレスを溜めないようにする事が大切みたいだね。
無理しないでね。
2006/06/07(水) 01:52:23 | URL | めぐ #-[ 編集]
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2006/06/06(火) 18:48:27 | | #[ 編集]
【res:】
■どんこ■まぁきっと、これまでもいろんなことがなんとかなってきたし、これからもなんとかなると思う。
楽観主義だから♪
ホンマに当日はかなーり凹んだけどけどね。もう大丈夫。最善を尽くすスタンスに変わりはないし、みんなとおさらばするつもりも(いまんとこ)まったくないし。
運不運は心の持ちようでどうとでも変わるしねー。

■アメミサ■うぬー。よくないよねー。(笑)でもまぁ世の中幸不幸の数って決まってるみたいだし(by美輪明宏w)最近俺は幸せばっかだったからこれでバランスがとれてよかった。
大事な誰かをうしなったり、誰かが傷ついたりするよりは自分がどないかなるほうがだいぶマシだと思えるようになった今日このごろ。
そうそう、絶対に見えなくなるわけじゃない、そういう可能性がないことはない、だけだからさ。
俺は運が強いしな。なんとかなるさ。

■けいさん■そう、両目です。普通片目だけの人が多いらしいんだけどね。まぁ統計なんて事実の前ではなんの役にもたたないw
件の診断が降りてからというもの世界が随分新鮮に見えます。
こんな美しい世界に住んでいたんだなぁ。
それだけでもラッキーだった。そう思うことにしました。
改善の望みは薄いけどせめて悪化しないように真面目に病院に通いますw
俺なんかのために祈ってくれる人がいることに本当に感謝です・・・

■みやちゃん■泣くな泣くな★まだ絶対失明するって決まったわけでもないし、一時はべこべこに凹んだけどもう今は大丈夫w
なんくるないさぁ(笑)
本当に今、不便ではあるがまだ見えている身の上がありがたかったり。
コンタにはまだ話してません。まぁそのうちバレるだろうから様子をみて話します。

■一志さん■そうなんです、両目がそんなことに・・・
暗い世界に色彩がないわけではない。
もし俺の世界が夜になってもきっと俺の中には色や事象の記憶が暗闇の中延々再現されていることでしょう。
・・・って、失明の可能性だってきっとかなり低いはずですけど。
あんまり考え込まずに最善を尽くします!だって見えなくなったらセックスの楽しみだって減っちゃうし!(ソコカヨ・・・)
あ、先日はお相手いただいてどうもありがとうございました♪お邪魔じゃなかったですか?wみなさんにもよろしくw

■ちとせ■まだ終わらせないし、終わる予定もナイって(笑)
まだまだお付き合いいただきますよ?ちとせサンw
俺も最善を尽くします。
凹んでばかりいられない。今生一度きり。悔いを残してなるものか。

■アヒルさん■コメントありがとう♪
なくなるかもしれない、そんな窮地に立たされてはじめて気がつく大切さ。
頭でわかってても心で理解できないことって多いです。それが体感できただけでも俺の人生当たりクジですよ。
あとはそれが現実にならないようにただ万策尽くすだけです。
俺の膝が折れそうな時、こうして声を出してくれる方の存在を本当に誇らしく嬉しく感じます。
ありがとう。

■secretさん■はじめまして。
そしてご心配・各種情報ありがとうございました。
年齢とかあんまり気にしないで下さいwネットの世界のよさってそこだと思うんですよ?
いろんな年齢層の方と交流できるところが醍醐味というか。
件のサプリ(?)ちょっと興味アリですw効果があるかないかは別にして気分的にラクになりそうなのもあって(コラ
ちょっと調べてみます。
また秘密記事でも結構ですのでお声かけてくださいね。

■ゆか■視力が低いのって本当ツライよね。泳ぐときとか不便だし。
今はさ、コンタクトとかあってだいぶ矯正できたりするし外科手術とかもあるけど・・・
裸眼で1.5とかある人が羨ましいけど所詮ないものねだり。
現状を悲しんでばかりじゃ仕方がない。
未来に怯えてばかりじゃ仕方がない。
そう考えてちょっと立ち直りました。
お互い前向きに行きましょうw

■きき■遠回りしてるキキ、なんとなくワカルwキキらしいや、って思ったヨ。
このブログにぶつくさ弱音吐いて立ち直って、ホントにこの場所の存在に感謝してる。
そしてそして
>いかなるときも進む限り道はある。
これいい言葉だ。
そうだよ、道があるから進むんじゃなくて進むから道ができるんだよな。
道が無けりゃ作ればいい。
俺が強いかどうかはわからないけど、適当に生きてる分、折れにくいんだろうな、とは思います。
まっすぐしっかり生きてたらぽっきり折れてるかもだもん。
きき、いつもいろいろとごめん。ンでありがとう。ホント、言い足りない。

■アコさん■諦めはいい方なんですけど、やっぱこういうのって投げたらおしまいだって俺にもわかります。
神様なんて信じていないけど、人のココロの力で起こしうる奇跡の存在は信じてます。
ブログ上でアコさんや大切でいとおしい人たちと別れずにすむためにも見苦しくも足掻いてみますw
ま、戦うとはいっても専ら自分の心と、だろうけどw
2006/06/06(火) 07:34:39 | URL | 恋児 #-[ 編集]
ふむ。

レンジが戦うと決めたのなら、そうすべきだ。

俺はレンジの応援しかできないチンケな人間なので、

せめて、レンジが決めたことは後押ししてあげたい。

でも

逢えなくなるのは、やだなー。
2006/06/05(月) 22:39:05 | URL | アコギスト #-[ 編集]
すぐにコメントすることが出来なくて、あれこれ検索したり遠回りしてきちゃった。
病のことはうまくいえる言葉なんて見つからないけど・・ただ私が思ったのは
泣き言を吐かず、戦闘態勢をとることのできるれんじくん、あなたは本当に強い人間だと思う。
れんじくんの中に感じる繊細さや危うさ(ごめん)を超えたところにあるその芯の強さに感服します。
いかなるときも進む限り道はある。
こんなことしか言えなくてごめんね。
2006/06/05(月) 09:17:20 | URL | KIKI #A9cyFz3c[ 編集]
私も生まれた頃から目が悪くて、眼鏡とは20年以上の付き合い。

大人になったら安定するといわれた視力も、まだ低下中。
視力がなくなったらって考えたら、本当に怖いです。

少しでも視力回復されることを祈ってます。
2006/06/04(日) 10:55:42 | URL | ゆか #-[ 編集]
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2006/06/04(日) 07:13:28 | | #[ 編集]
…考えられないです。
見えるのが普通で今を生きているのに
好きな人とか…家族とか…
色とか…風景も…

『見えなくなる』

『普通』が『普通』で無くなる事が
こんなに怖い事だなんて…

レンジさんの目の回復を祈っています。
2006/06/03(土) 22:31:55 | URL | アヒル #Z9czMKss[ 編集]
私もちょこっと調べてみたけど…結構厳しいみたいだね。
無責任に「ダイジョウブ」や「頑張って」という言葉はかけられないけど、でも、やっぱり私も恋児くんの目が今より少しでも善くなることを願います。
この不思議な縁を、これで終わらせたくないなぁ…
2006/06/03(土) 21:53:24 | URL | ちとせ #-[ 編集]
う~ん。
ちょっとググってみたけど、怖い病気ですよね。
両目がそんな事になってるって事なのかな。

世界が暗くなってしまう時。

そんな事考えた事もなかったけど
想像しただけで、なんか泣けてきた。

かける言葉が全然思い浮かばないんだけど
症状が重くならない事願ってます。
2006/06/03(土) 21:41:08 | URL | 一志 #1wIl0x2Y[ 編集]
見えなくなる…何もかも…?愛する人も?

自分のことではないのに、涙がでました。
もともと見えないのならその事にも耐えられるかもしれないとも思ったけど
どうかな…やっぱ無理…?;

今まで当たり前のように見てきたものが、これからは違って見えてくるかもしれないですね
どうか、レンジさんの目がよくなりますように
あともう一つ、この事はコンタさんに話すんですか?
2006/06/03(土) 21:38:49 | URL | みや #9GWVC0v.[ 編集]
もしや両…目、なんですか?
…だめだ、何もうまく言えない…。
これ以上悪化しないよう、出来れば良くなるよう祈ります。

忘れたくない大事なものを、音や臭いや触感で色鮮やかに思い描けるくらい目に焼き付けてくださいね。
恋児さんが記憶力抜群で良かったと思います。
2006/06/03(土) 20:51:32 | URL | けい #HQqHXCfI[ 編集]
うぬー。
あまり良くない結果になったな。汗

まぁ、絶対に見えなくなるってワケじゃないねんし、もしかしたら、データが少ないブン、これから治す方法だって見つかるかもしれんやんね。


って、軽く言ってすまん。ぁう
2006/06/03(土) 16:54:44 | URL | アメミサ #-[ 編集]
んー。
なんともいえない。
専門医でもないし コレばかりは
レンジの運を願うだけだ。

でも万が一。
文面で逢えなくなるのはイヤだナァ・・・・
2006/06/03(土) 16:40:08 | URL | どんこ #-[ 編集]
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