深夜を回ったころ、コンタがやってきた。
珍しく家でシャワーを浴びてきたのか私服だった。
俺はちょうどベッドにあぐらをかき、夕方、森さんに朱を入れられた楽譜を広げ、
運指とボウイングをなぞりながら暗譜の真っ最中だった。
「おぅ。おつかれ」
コンタは相変わらずの笑顔だ。
「うっす・・・・何してン」
「暗譜・・・来週やからな、本番」
「そっか」
はー、涼しいなと言いながらコンタがフローリングに座り込む。
「あれ、マットがないな」
ああ。
いつも敷いているラグマット。チェロのエンドピンが滑るので森さんが来た時に外したんだった。
コンタはインド綿のあの手触りが好きらしい。
「椅子の上に畳んであるワ・・・敷いといて」
「おぅ」
よっこら、と立ち上がってデスクの椅子をひく。
俺の目のはしでコンタの動きが止まった。
楽譜から目をあげてコンタを見ると、デスクの上を凝視している。
何だ？
デスクの上にはパソコンと勉強のためのテキストが散らかっているだけのはずだった。
森さんが来るときに確認したから間違いない。
「どしたん？」
コンタが振り向いた。
笑ってない。
「誰かきた？ココ」
「え？」
「この部屋。俺以外」
うわ。
何だよ。
何て顔してんのコンタ。
「来たで・・・今度の演奏会で一緒に演奏する人・・・チェロの弦が切れて」
「ふうん・・・・」
一体なんだ。

俺はしぶしぶ立ち上がってベッドから降り、コンタが凝視している机の上を見た。



・・・・
何だよこれ。



『れんちゃんって着やせするんやなー。
いいカラダやん。俺惚れたぞー！
また今度よー見せてなー
じゃあね/森』



サイアクだ。
ハートマークがこれでもかっていうぐらい付いている。
いつの間に書いたんだ。
机の上に直接。
それも油性ペンで。
社会人としてありえねぇぞ。
あぁぁぁぁぁぁああ。
梶井基次郎も真っ青な爆弾。
シャレにならない。

そして
コンタの顔が怖い。


「弁明せぇ」
「そんなもんない」
「なんでこんなん書かれてんねん」
「知らんがな。着替えちょっと見られただけじゃ」
「なんでそんなん見られんねん」
「男相手にそんなん気にする方が不自然やろが！」
「浮気してへんやろな？」
「なんやねん浮気て」
「この森とかいうやつといろいろ」
「キスとかセックスとか、ってことか」
俺がダイレクトに聞くとコンタが、ぐ、と言葉に詰まった様子だった。
生々しいイメージに我に返った雰囲気があった。
「おまえとしとるようなこと、森さんとしてるんか、てことか」
俺が畳み掛けるように続けるとコンタが急に俯いた。
「うん・・・」


「するか、ボケ」


俺はそれだけ言うともう一度ベッドに上がって楽譜に目を落とした。
キスとかセックスとか。
コンタとしているそういうこと。
そんな浮気、してない。
俺は嘘は言ってない。



俺は沈黙のまま楽譜を読み続け
５分ほどしてコンタが折れた。
「ごめん俺・・・またやってもた」
シンゴの時も確かこんな感じだったか・・・
「別にええけど・・・そんな既成事実どこ探してもないで、ゆっとくけど」
「うん、ゴメン」
やっぱりキレてるコンタの方が扱いやすいなぁ・・・
「森さんは変わった人やからな・・・来週会うたら分かるワ」
「うん」
「ゲンゴさんの時以来、お前以外とキスしてないからな」
本当に、そんな事実はどこにもない。
しょげかえるコンタがかわいそうになった。
悪いのはおまえだけじゃない。


「コンタ、来いや」


声をかけると
見る間にコンタに押し倒された。
がさ、と俺とコンタの下で楽譜が苦しげに音を立てた。
「ちょ・・・楽譜」
いいかける俺の唇を塞いでコンタが俺のシャツをたくあげる。
脇の下から脇腹、乳首。
熱い指先がまどろっこしげに触れていく。
「あれ・・・れん」
「なに？」
「おまえ・・・痩せてねぇ？」
「・・・そんなんどうでもええやん」
そういえば最近あまり食べてない。
雨が続いて膝の古傷が痛んで走れてない。
でもそんなの。
そんなのどうでもいい。


尾骶骨の下、奥深いところが疼く。
何が欲しいかなんてわかってる。
俺の心を綺麗に裏切って、カラダだけが発情して暴走を始めた。

スイッチはＭ。
コンタ。
お前、今日の俺についてこれる？




服を脱ぐコンタの前で俺は四つんばいになった。
自分でローションを垂らし
まずは１本、中指をアナルに沈めた。
なんの抵抗もなく、根元まで沈んだ。
夕方。
俺は同じことをしてた。
ゆっくり沈めた指を更にゆっくりと引き抜いて、引き抜き際に前立腺を刺激する。
軽く。
「ひぁ・・・・・っっ」
「れん」
「ちゃんと見てろって・・・」
見てて。
俺のいやらしい姿を。
そして
詰って。
虐めて。

ただ淫乱に尻を突き出し自分でアナルをほぐす俺を観察していたコンタがやがて勃起した自分のチンコを俺の顔の前につき出した。
意図は明白、もちろん俺にも躊躇はない。
いっぱいに唾液を含ませて一気にくわえこむとコンタが声をあげた。
きつめになんどか吸いあげると一気にコンタのチンコが張り詰めた。
指はたまらずに３本。
ローションの湿った音にわざと空気を含ませると
くちゅ
といやらしい音が俺自身の劣情に火をつけた。
コンタ。
ここは
言葉責めするトコやぞ。




コンタの上に跨る。
コンタが笑った。
「珍しいな・・・れんが上にくるなんか」
「イヤ？」
「ううん。れんのエロい顔見れるからエエ」
ダメだコンタ。
今日の俺はそんな優しい言葉じゃイけない。
もっと罵れ。
淫乱な俺を、欲情まみれの俺を。
「俺って、淫乱やと思わん・・・？」
煽って。
「うん・・・今日はまた一段と」
「はよ入れたいねん・・・入れてエエ？」
「自分で腰ふるん・・？」
「ん・・・」
もっと
責めろ。
「それとも下から、突き上げて欲しい気分・・・？」
コンタが笑った気がした。
「うあっっっっ・・・・ァ！」
俺が自分で尻を落とすより先、コンタのチンコが下から容赦なく潜り込んできた。
一気に根元まで潜り込んできて、ゆっくりと抜かれる。
「れん・・・・っ」
頭が真っ白になるぐらい感じたいのに
どこかが妙に冴えていて
もうひとりの自分が、心の中で俺を罵っている。
ほら、もっと腰ふれよ。
欲しかったんだろ、チンコ。
やらしい顔。
「ぁ・・・・見んといて・・・」
見てほしいんだろ？
「あ・・・・ぁ・・・」
腰が勝手に動く。
ああ。
見られて気持ちいい？
「あぁぁ・・・気持ちイ・・・っ」
俺が動く刺激にコンタが目を閉じて喘いでいた。
「れん・・・っあかん・・っそんなに動いたら・・・」
誰に見られてる？
誰に罵られてる？
「アカン・・ってれん・・・っ出る・・・・・」
コンタが強く俺の腰を突き上げた。
俺は自分のチンコに手を伸ばして扱きながら更に腰を振った。
奥、前立腺。
自分の感じるところを奔放に。
「れん・・・・っイく・・」
「俺も・・・もう・・っ」


放心。
コンタに跨ったまま肩を上下させているとコンタが
「おい」
と声をかける。
「・・え？」
「ちょっと少なすぎるんちゃうか？」
とコンタが指差した俺のザーメン。
ああ。
そうだろうなぁ・・・
「薄いし・・・」
コンタの腹筋を薄く覆う粘液を指ですくって、自分の唇の間に押し込む。
量は少ないし粘度も低い。味だって薄かった。
「・・・俺がこんだけエロモード入ってるんやで？」
「れん」
「オナニーしてないとでも思った？」
「そんなにしたん」
「めっちゃした。っつかしまくった」
「そんなに俺のチンコ欲しかったン？」
あー。
いまごろＳモードかよ。
遅いよ（泣）



まあね・・・・



コンタ。
頑張れ。
暴走した俺についてくんのは大変やぞ？


「ちぇ・・・なんか今日のれん、意地悪いワ・・・」

森さんにどう嫌味を言ってやろうか考える俺の横で
さしてまんざらでもなさそうにコンタが笑った。



おまえも病気だね・・・